解放不可

□解放不可 [八]
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頭の奥がずきずきする。
こめかみを軽く手で押さえながら仕度を整える。

一ヶ月も経たない内に任務を終えられたのは、あの上忍のおかげだというのは周知の事実だ。

『さすがヒズキ上忍』

当たり前のような賞賛を当たり前のように流す彼女には、確かにそれだけに見合う実力の持ち主だ。
目の当たりにしてそれを体感した。
並外れた身体能力と技術。
加えて、それに恥じない見目を持つ。
偉ぶらない飄々としたその態度がヒズキの魅力を上げていた。

任務完了後の突然の敵襲にも、臆することなく完璧に対応する姿は見る者を魅了する。


一ヶ月近く共に行動し、幾度と無く彼女の姿にあの人が重なった。

その度にざわつく心臓に私は落ち着けなかった。



「・・・っ」

殴打されたような傷みが頭を襲う。
思わず硬く瞑った目をゆっくりと開き、視界を確認しながら戸の鍵を閉めた。

目の奥に見えた今朝の夢の「残像」を見ないふりして。





「結構です。受理しました。」

人のいい笑顔の受付員に笑顔で応えると、受付を後にする。
今日の日付を思い出しながら数えてみるとカカシとはちょうど一ヶ月顔を合わしていないことに気付いた。
ヒズキとの任務終了後3日間の休みを与えられ、今日から通常の勤務形態に戻った。
少しは変わるだろうと思っていた自分の心情が一月前からあまり変わっていないことに気付いて思わず溜息が出る。
自分が何のためにカカシと付き合っているんだろうとふと思い当たってむなしくなった。

何だこれ・・・
会いたいとも思わない相手なのに、会わなければいけないとどこかで思う。
自分を掻き乱すだけの存在ならもう別れてしまえばいいじゃないか。
だけど、私は彼と会わなければならない。
矛盾した感情が自分を支配して、それを抑えるようにぐっと胸元を押さえた。

その時ふと目に入った光景に胸元を締める手に力が入った。

窓の下にはカカシがいて、その傍にはヒズキがいた。
何を話しているかまでは聞こえないが、二人が出す雰囲気はその信頼関係の深さを表しているようで。
楽しげに笑うヒズキに、目を細めるカカシの姿に胸が痛んだ。
すっと伸ばしたカカシの手を違和感なく受け入れたヒズキ。
ただ髪に付いた葉を取っただけの行動。
初めて二人を見た人物からも二人がただの関係では無いことがわかるような仕草だった。




ズキン

また頭が痛んだ。
それと同時に瞑った目の奥に映る人影。
ヒズキの長い髪が風でなびいて、あの女のそれと被って見えた。


あの男、カカシは自分のものにしなければ。
思い出したかのように自分を支配する感情。
迷いはもう無い。







置いていかれるのは、もう嫌だ。

















2008/04/29 kai

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