解放不可

□大切な女(ヒト)
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何でも無いと思ってた物が
どんなに大切だったのか。


『いなくなって初めて気付く』


三文小説のような一文が、頭に浮かんだ。






自分の中に湧き上がった子供染みた嫉妬心から俺はあいつを裏切った。


「ね、カカシ。バレなきゃいいんだって。」


猫なで声で身体を押し付け、柔らかに俺に添わす。

可愛いとも別に思わないが、柔らかなその感覚に湧き上がったものをこの女で満たしたいと思ったのは事実だ。

彼女が今俺以外の男に触れられていることを
考えることも嫌だったから。

頭に浮かぶのは下衆のような想像ばかりで。
湧き上がる苛立ちを吐き出すように女の中に自分を突き入れた。
出した後感じたのは自慰行為と同じ感覚で、ただ虚しさだけが残った。




頭では冷静に自分を責めながら
俺は心の隅で、最低なことを考えた。


あいつも他の男と寝たのだ



自分への嫌悪感で吐きそうになる。
いつまでも彼女の泣いた顔が頭から離れない。

いつも傍にいてくれた彼女は、もういない。


失うことが恐いと知ったのは、ヒズキの悲しみと引き換えだった。




完璧な外面と相反するように、俺の内面は欠陥だらけだ。

定められたことは何だってこなせる自信がある。



ただ、あれから数年経った今も
人に対しては不器用なままだ。





「カァーカシ」


間延びした声に振り向けば、昔深く傷付けた愛しき女(ヒト)が立っていた。



「ヒズキ」


その名を呼べば、彼女は昔の面影を残すままふわりと笑んだ。


今はもう、ヒズキお前を守る資格も無い男だけど、いつまでもお前は大切だから。









「あれ?小じわ出来た?」

触れた手を容赦なく払われ、苦笑いする俺に、笑う彼女。




いつまでも君のままでいて



そんな言葉は一生口には出せやしないだろう。



けれど


君が笑って暮らせるなら、
それでいい。











2009/04/05 up
2009/10/16再編集   kai


いつまでも君を

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