short book

□Merry Christmas!
1ページ/1ページ






「Trick or treat!」


「・・・」


突き刺すような冷気が漂う扉の外側で、イルカ先生が立っていた。



「もうクリスマスですよ。」




正確にはまだイブではあるが、今はそんな細かいところはどうだっていい。

12月24日。様々な異国の文化が浸透した火の国では、いつの頃からかクリスマスも当たり前の行事となっていた。
毎年この頃になると、忍びは大忙しとなる。
火の国のあらゆる家で、それこそ大名家から一般家庭までがクリスマスの2日間パーティやらコンサートやら開くので、お祭り騒ぎといった風情だ。
それらの準備や警護、さらには後片付けにまで忍びは駆り出される。
よく言えば大繁盛の時期なのだろうが・・・当然、忍び達も人の子だ。クリスマスという日は人のことよりも家族や恋人と過ごしたいというのが本音である。
そこであらゆる手段を行使しクリスマスの休みを取ろうとするのが、木の葉では11月の恒例となっていた。
下忍は例外なく駆り出されるので、主に中忍と上忍たちに限ることではあるが。

カカシはというと、毎年その争いには参加することなく常連のように警護に出かけていた。
特別過ごしたい相手もいなかったし、行事自体興味が無かった。
それに木の葉もちゃっかりしているもので、この二日間の依頼料は通常より割り増しにしているので、カカシに取ってもそこまで悪い話ではなかった。

そう、昨年までは。

今年は違う。昨年との大きな違いが、カカシにはあるのだ。

愛しのイルカ先生


今まではあんな行事なんてどうでも良かった。
馬鹿な女と過ごす気にはなれなかったから。

でも、イルカ先生。彼とは是非この聖なる夜を一緒に過ごしたいと思う。
思い立ったが吉日。
まだ11月の始めだというのに、彼に自分と過ごそうとアプローチをしまくったのだ。
ハロウィンの名残か、顔を引きつらせて逃げ回る彼を、本気では拒絶されないように距離を保ちながらアプローチしまくった。30日間のうちで25日は。(任務で里外にいた日を除く)
もちろん、2人共が24、25日と連休を取れるように根回しも忘れずにした。
25回目のアプローチのときは最初よりも明らかにイルカ先生との距離が縮まっていた。
これはいける。
そう思った―――が。


運命の12月1日。任務の予定がそれぞれの忍びに配られた。
・・・あれだけ根回ししたはずだったのに。

「すみません。24、25日は任務が入っているようで、はたけ上忍とは過ごせそうにありません。せっかく誘ってもらって頂いたのに・・・。」

「い、いいんですよ。任務なら、はは、しょうがないです。ほんと・・・気にしないで下さい・・・」



そういう経緯で、一人で晩酌するはめになったイブ。
寂しく手酌で酒を煽っていると、玄関の扉が鳴った。

こつんこつん、遠慮がちに鳴ったドアを開けるとそこにはイルカ先生が立っていた。




「Trick or treat」


「・・・」


「もうクリスマスですよ。」


「・・・わかってます。」


冷静にツッコミを入れたがいいが、これはどういうサプライズな状況なのだろう。
2日間とも任務が入っていたはずの彼が、スーパーの買い物袋を提げて俺の家の前に立っている。
寒さからか、少し頬が紅い。
ああ、かわいいなあ・・・見惚れていると「あの、」と躊躇いがちに彼が口を開いた。
空は今にも雪が降りそうに曇っていた。月が雲に隠れてぼんやりと鈍く光っている。


「入れてもらっていいですか・・・」

寒いんで、と付け足した彼はさっきよりも紅くなったように見えた。

「あ!はい!どうぞ、すみません気が利かなくて・・・!」

ドアを押し開きながら、反対の手で中に招く。
軽く頭を下げながら「どうも」とイルカ先生が俺の前を通って室内へと入った。
顔を掠めた後ろ髪を追いながら、扉を閉じ鍵を閉めると自分も部屋へと上がった。


イルカ先生はシンクの前でがさがさとスーパーの袋を漁っている。

「何してるんですか?」

「材料買って来たので、つまみでも作ろうかと思って。少し台所お借りしてもよろしいですか。」

「ええ、そりゃもちろん。」

話もろくにしない間にイルカ先生はてきぱきと台所を使い出した。

なんかお嫁さん貰ったみたい・・・

後姿を見ながらにやにやと妄想に耽っていると、イルカ先生の声で我に返った。


「何見てるんですか?」

「ええ、いや、」


中忍とはいえさすがは忍び。カカシの無言の視線にさえ当然気付く。


「あ、イルカ先生、何故うちに・・・?」


「あなたが散々誘ってきたんでしょうが!」


こちらを振り向かないままイルカ先生は答える。
気を害してしまったのか、言葉遣いがいつもより荒くなっているが、それがまた親しくなったようで嬉しく感じてしまう。


「いや、そうなんですが。そうじゃなくて、今日と明日は任務だったんじゃなかったですか?」


「先日彼女に振られた奴に代わってもらいました。」


「ああ。そういうことでしたか。」


それはそいつも気の毒だったな。
いやでもそのお陰でイルカ先生が来てくれたんだから感謝すべきか?

いや、それは今はどうでもいい。
今一番イルカ先生に聞きたいことは。



「イルカ先生。」

「・・・はい?」



「どうして、そこまでして俺とクリスマスを過ごそうとしてくれたんです?」


「・・・。」




「イルカ先生?」



しばらく待っても答えないイルカ先生を覗き込もうとした。


「見ないで下さい。」


「いだッ」


俺の顔をはたいて、イルカ先生は顔を背けた。

その耳が赤くなっていたのは俺の気のせいではないだろう。




「ねえ。イルカ先生。なんで?なんで来てくれたんですか?」


「知りません。」


「え――?なんでなんで??」


イルカ先生の気持ちがなんとなくわかった俺は調子に乗って尋問を続ける。


「邪魔です。向こう行ってください。」


少し赤みが残る頬をしたイルカ先生がフライパンの準備をしながら、カカシを冷たくあしらう。


「ふふ。」


「・・・何なんですか。」


怒気を含めて問いかけてきたイルカ先生の耳元で囁いた。
今度は首まで赤くしたイルカ先生のフライパンでの攻撃をかわすと、けたけた笑いながらリビングへと戻った。




『好きです』




俺もです。カカシのいなくなったキッチンで赤くなったイルカがぼそりと呟いた。







 s!

e a e 


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ