短編夢小説

□夜警について行こう
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「は?」


物の怪と勾陣の声が重なる。
異口同音で返してくる神将二人に、昌浩は苦笑した。

ほらやっぱり、息もぴったりではないか。

「いや何となく前より仲が良いなぁ、て思っただけ」

「そうか?」

身軽な動作で物の怪が軽く跳躍し、昌浩の肩に飛び乗ってくる。
一方の勾陣も、首をひねりながら昌浩を見つめていた。

「別に前と変わらないと思うが?」

「だよなぁ。昌浩、お前の勘違いだ。ったく、まだまだ修行が足りんな晴明の孫よ」

「孫言うなっ」

反射的に怒鳴り返して、昌浩はふと瞬きをした。

「そういえばさ、何でもっくんは勾陣のこと『勾』って呼んでるんだ?」

他の神将たちはみんな『勾陣』と呼んでいるのに。

前にそれを物の怪に聞いた時、うまいぐわいにはぐらかされてしまった。
だから今度は、勾陣がいるこの場で、もう一度聞いてみることにしてみたのだ。

案の定物の怪は昌浩から視線を逸らしてしまったので、昌浩は勾陣に問うような眼差しを向けてみる。

勾陣はしばし思案げに顔を傾けた後、やがて何か思いついたかのように口許に笑みを浮かべた。

「それは私も聞いてみたいな。謄蛇よ、なぜ私を『勾』と呼ぶんだ?」

「な・・・・っ、勾!お前は知っているだろう!!」

動揺と焦りの入り交じった表情をする物の怪の抗議の声を、しかし勾陣は涼しげに受け流してみせる。

「さぁ?大方の予想はつくが、お前の口から直接聞いたわけではないからな」

言葉とは裏腹に、勾陣はあきらかに確信めいたものを持っているようで、彼女の瞳には笑いが含まれている。

物の怪は軽く舌打ちをして、顔をあらぬ方へと向けた。

「―――なんとなくだ、気にするな」

顔を背けぶっきらぼうに答える物の怪が可笑しくて、勾陣はくすりと笑みをこぼした。

「・・・勾よ、何を笑っているんだ」

「・・別に、ただ可笑しくてな」

謄蛇だけが自分を『勾』と呼ぶ理由を勾陣は知っている。
重い言霊を持つもうひとつの『名』という呪を知ってしまった謄蛇の声は、勾陣の心を無条件に縛る力を得た。
だから、それを回避するために彼はあえて別の言霊で自分を『勾』と呼ぶのだ。



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