短編夢小説

□たまには。
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「では、後のことは頼んだぞ」

十二神将である朱雀と天一にそう言い残し、晴明は安倍邸を後にした。

残された朱雀と天一は、目の前にいる幼子、晴明の孫である昌浩を見つめてから顔を見合わせる。

自分たちの主であり昌浩の祖父である晴明は、左大臣道長に火急の用で呼ばれて出掛けてしまった。
いつもなら昌浩の世話をしている筈の紅蓮も今回は晴明に着いていってしまったため居ない。

だから、朱雀と天一は今日一日だけ昌浩の世話をするようにと晴明から頼まれたのだ。
本来なら昌浩の母である露樹が世話をすればいいのだが、今日に限って彼女は高熱を出し朝から寝込んでしまっている。

「さて、どうしようか」

気持ち良そうに眠りこけている昌浩を目の前に朱雀はため息をついた。
彼は幼子の世話などしたことないのだ。
隣に居る天一に助けを求める視線を向ければ、彼女はにっこりと笑みを浮かべている。

「まだ眠っているのだし、お世話するのは目が覚めてからでもよろしいのでは?」

彼女がそう言った瞬間、眠っていた筈の昌浩の目が開かれた。
何かを探すように視線をさ迷わせ、傍に居る朱雀と天一に視線を止める。

「・・れーん?じーま?」

昌浩から発っせられた言葉に、朱雀と天一は揃って首を傾げた。
が、やがて彼が誰を探しているのか理解し納得のいったような顔をする。

「あいつらは今出掛けてしまっていないんだ」

「だから今日は私と朱雀で我慢してください昌浩様」

天一が昌浩をそっと抱き上げる。
びっくりしたような面持ちで天一を見上げていた昌浩は、やがて悲しげに顔を歪ませた。

「れーんじーまいないー?」

「ええ。不服でしょうが、今日は私と朱雀がお相手しますわ」

瞬きをして、昌浩は天一を見つめた。
隣にいる人物を見遣ると、怪訝そうに眉をひそめている朱雀の姿があった。

「おい昌浩。まさかお前、俺の天貴に何か不満があるんじゃないだろうな」

「うー?」

朱雀の額に巻かれている白い領巾を見つけるなり、昌浩の瞳がきらきらと楽しそうに輝く。
小さい腕を懸命に伸ばして、垂れ下がっている領巾を触ろうと昌浩はもがいた。

「すー、うー」

「?」

昌浩が何がしたいのか理解出来ず、朱雀は彼を抱き上げた。
と、近付いたがために額に巻いてある白い領巾(ヒレ)のようなものを昌浩に掴まれてしまう。

「うわっ、何をする昌浩、放せ!」

慌てた様子で、昌浩を領巾から引き離そうとする。
しかし、幼子の力は意外に強かった。
無邪気に領巾を引っ張っては喜ぶ昌浩に、朱雀はかなりの苦戦を強いられることとなった。

黙ってその光景を見守っていた天一が、小さく笑みを零す。
それに気付いたのか、領巾から昌浩を引き離そうとする手を休めることなく朱雀は彼女を振り返った。

「どうした天貴?」

「いえ。ただ楽しそうだなと思いまして」

そう言って、天一は楽しそうに微笑んだ。
つられて、朱雀も口許を吊り上げて笑う。

「・・・・そうだな」

小さな子どもを抱いていて、隣には最愛の人が笑っている。
たまには、こんな日も悪くないのかもしれない。

楽しそうにはしゃぐ昌浩を見つめながら、そう思った。




End.
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