彼女は氷の銀世界の中に萎れることもなく美しく咲き君臨する百合、つまりは女王だったのです。わたくしめは彼女にただ近付きたい近付きたいと彼女の周りをより美しく艶やかに引き立てるかすみ草となりました。同じ白い世界に溶け込む同じ白い花、しかし彼女は色に溶け込むこと無くそれはそれは美しく自我を持ち咲き誇っておりました。理由なんてものは愚問、彼女が女王だからで御座います。

「明日香さんにちょっかいかけてないでしょうね!」
「はぁ?俺は明日香とデュエルがしたいだけなんだけど」
「明日香、ですって!?このオシリスレッドのドロップアウトボーイが明日香さんのことを呼び捨てで…!」
「な、何だよ…用が無いなら俺もう行くぜ?」
「あっ…お待ちなさい!」

 彼はきっとあの赤を心臓の中にもたくさん秘めております。いいえ血潮だなんて在り来たったものでは無く、もっと膨大な、膨大な、膨大な何かを秘めているのです。あの深紅の色を目に入れた瞬間に目の前には火花が弾け、目の前にはそう、血の色にも似た薔薇の花。きっとあの殿方には薔薇だなんて花は似合わないたんぽぽ、それで十分。そう分かっているはずなのに、彼はそう、あの黄色の様に明るい色を輝かせしっかりとした根を張り巡らせてこの世の中を変えていくのです。

(嗚呼明日香さん、気付いておりました)
(貴方の視線にあの殿方がいることを)
(しかしねぇ明日香さん、わたくしたちは知っております)

(百合とたんぽぽは交配出来ないと言うことを!)

 貴女は美しい純白のかすみ草に囲まれて美しい銀世界で美しい大輪を咲かせる、それが一番似合っているのです。生体は全てあの殿方が変えました、あの男があいつがお前があああ気に食わない地面に伏し犬の尿を浴び無様に踏みにじられ最期には美しく散ることも無く綿を飛ばして朽ちるお前を、お前を!

 きっと貴女の瞳には、コンクリートから無様に頭を出したたんぽぽが写っているのでしょう。



(080930.孔雀草は儚く散り/十代←明日香←ももえジュンコ)


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