「see you,どう
いう意味か分か
るか」    
「愚問だな」 
「なぁ、分かる
か?」    

 雨の中に伸び
る二つの影は闇
を照らすライト
によって作られ
ている。電柱の
上に付いている
それは消えかけ
たり強く照らし
つけたり、それ
は動く心臓の様
にちかちかと自
我を持っていた
。      

 一つの傘の中
に二人。右に要
るものは左肩が
触れあい、左に
要るものは右肩
が触れあう。擦
れた肩から微か
に感じるはずの
熱は雨がすべて
吸い取ってしま
った。小さな喪
失感。    

 右にいる傘を
持った男の質問
の意図が分から
ず、エドは眉を
顰める。そんな
エドを横目で見
る右の彼、遊城
十代はけらけら
と笑った。雨が
地を蹴り上げ跳
ねる音と十代の
笑い声の中に、
エドの声が響く
。      

「…さよなら、
だろう」   
「本当にそう思
うのか?」  

 地を蹴り上げ
跳ねてまた落ち
る雨粒も、自我
を持っている。
それは跳ね上が
り、ぴしゃりと
エドの靴の上に
乗った。小さい
抵抗が濡らし、
冷やす。   

 一方で、彼の
言葉の意図も理
解できなかった
。雨の中で吹か
ない風、きっと
今エドの髪が揺
れたのはその隣
の彼が風を作り
上げたからだろ
う。     

「何が言いたい
」      
「see you,はま
た会いましょう
の意だろ」  
「それがどうし
た」     
「さよならは、
さよならなんだ
」      

 エドの髪を弄
りながら十代は
そう告げる。彼
が何を言いたい
、伝えたいのか
、全くもってち
んぷんかんぷん
であった。綺麗
だな、と髪を弄
り続ける十代に
痺れを切らして
エドはこう述べ
る。お前の意図
は、汲み取れな
い。     

「だって、さよ
ならだぜ」  
「だから何だと
聞いている」 
「さよならは、
別れだろ。また
会いましょうじ
ゃないんだ、さ
よならなんだ」

 傘をくるくる
と回しながら告
げる十代に、エ
ドは頭痛を感じ
た。彼はこうし
てたまに意図が
読み取れないよ
うなことを突拍
子も無く言って
くる。その度に
、エドは頭痛を
感じるのだ。 

 だがそれも、
彼の自我。傘が
回り水滴が飛び
頬の熱を奪って
いくのも全部、
彼の自我。  

「なぁ、今俺が
こっからいなく
なったらエドは
see you,どんな
意味で使ってく
れる?」   

 いなくなった
ら、仮定形のく
せにいなくなっ
ているのも、彼
である。何も返
さずぼんやりと
立っているエド
の右肩から、小
さな熱が消えた
。      

 ライトがちか
ちかと消え仄め
る。雨が地を蹴
り上げる。回っ
ていた傘が止ま
る。彼の足音が
遠ざかっていく
。全て、自我で
ある。    

 十代に言葉を
返さなかったエ
ドもまた、自我
であった。  



(081013.自我である/十エド)


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