ねえさんと一緒にいる男を見た。ねえさんはとても楽しそうに笑ってて、男も軽く口角を上げて笑ってた。男の名はグリーンという名前の男だった。

 地面を蹴りあげ擦ったスニーカーの音を鼓膜を伝って耳の奥へと仕舞う。ねえさんが、男と、グリーンさんと一緒にいた。でも俺が気になったのはねえさんの方じゃなくて、そのねえさんの隣で笑っているあいつで、もうこの感情が全く訳が分からなくて頭がごちゃごちゃに絡んでしまいそうだった。気持ち悪い。朝飲んだ紅茶と一緒に胃袋に流されたトーストが仲良く逆流してきそうな感覚だ。やっぱり気持ち悪い。

 この気持ちの名前が分からないままただただ俺はグリーンさんが視界に入ったらそれを視線で追い掛けて射止めて、でもグリーンさんが射止めるのはねえさんで、この一方を行く弓矢はいつグリーンさんの心臓を抉るのだろうか。
その沼の底あわよくば深海を想像させる深く麗しい緑は爽やかな南の海の色と見詰め合い、決して海とは関わりの無い雪国の銀とは混じ合ってはくれない。
銀色は何とも混じ合うことは出来ないのだ、近くにいる唯一の存在とも思えた輝かしい金に見捨てられたかのように融かされ、無人の洞窟の奥の奥でひっそりと見付けた水晶に拒絶され、銀は融けた姿のまま海へ還される。
漸く海の色と混じ合えたと感じた瞬間に、もう銀は銀色でなくなっていることに気付き涙に姿を変えて深く暗い銀色を垂れ流すのだ。

 皮肉な話でそれはあながち間違ってはいない、だってそれは。分からないこの遠くで淡く揺れる青と緑を見て俺はどう思っているんだ、

(今までの感情を正直に包み隠さずねえさんに話したらねえさんは苦い表情を浮かべた。聞いてはいけないことだったのかと少し公開した矢先、もうグリーンのことは考えちゃ駄目よとの声。何で、と呟きひとつ、そしてもうグリーンさんのことを考えられないと脳が指令を出した瞬間圧迫される俺の心臓。ねえさんはシルバーはいけないことをしたのよ、と何時もとは全く違う音色で続ける。いけないことをした、そんな意識など。いっそのこと意識を飛ばして銀世界の雪を押し退け出てくる一本の新しい淡い緑の新芽、銀と緑が混じるのはあと何回世界を巡れば良い?)

 ああ嗚呼ア、成る程分かった。どうやら俺は赦されないことを犯してしまったらしい犯罪よりも酷くグロテスクで恐ろしい(ディスプレイが曇)(る)
そうだそのまま惨めな俺を鼻で笑ってその鋭い視線で俺の内蔵を抉り取り心臓を射抜けばいい。



(080728.銀→緑青/世界輪廻)


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