☆ノーマルカップリング集☆

□記念日
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『悪いが、今日は遅くなる。
先に寝ていなさい。』

一家の主からの電話。

妻、セレアは、非常に膨れていた。

それと言うのも、明日は二人の結婚記念日なのだ。

今日はその前祝いで、毎年二人で食事をするのが常。

「…おとーさんってば…結婚記念日忘れてるのかしら。」

仕事が忙しいのは判るが、
結婚してから今まで喧嘩もしていないのに一人寝などしたことがないので、とても寂しい。

自分の髪を梳いてくれる綺麗な指や、
隣で横たわる暖かな温もりが、今日はお預けにされてしまった。

子ども達も、もう既に自分の部屋に入っている。

しんとしたリビングは家族と居る暖かみが失せ、とても冷たい気がした。

いつも夫の座っているソファに腰掛けて、面白くもないテレビをひたすら見つめる。

「お仕事…忙しいのね。
おとーさん疲れてるのに、倒れないと良いけど…。」

やがて二時間が経過。

時間は夜の十一時。

うたた寝をしていたセレアの耳に、電話の音が飛び込んできた。

慌てて出ると、電話口から涼しげな女性の声がする。

「セレア。
久しぶりね。」

セレアの高校時代の同級生だ。

彼女には、あまり良い感情はない。

こんな時間に、何の用かと問うと。

「今、先生と一緒に居るの。」

そんな言葉が返ってきた。

『先生』とは、恐らくセレアの夫の事を指している。

高校時代、夫は高校教師であり、セレアの教科担当だったからだ。

セレアと付き合っていることが広まって、教師を辞めなくてはいけなくなり、
今は努力の結果、大手ホテルの支配人になったけれど。

「…仕事先で、でしょ。」

セレアは低く答える。

彼女は、セレアより前に彼に好意を寄せていた。

ありがちなパターンかとは思うが、当然、噂を流したのも彼女。

その後、密かに彼を追って同じホテルの従業員になった彼女は、
仕事振りを認められ、今は彼の補佐として働いている。

職場が一緒なら、一緒に居るのは当たり前だ。

彼女はくすりと笑った。

「馬鹿ね。
彼が仕事だと言うのを本気で信じてるの?」
「信じてるわ。
ジンは私を傷付ける嘘は言わない人だもの。」

ハッキリ返す。

でも、心は酷くざわついていた。

「そう。
ならいいけど。
じゃあ彼、朝まで借りるわね。」

艶のある甘ったるい声が笑う。

信じたいのに、セレアは目の前が真っ暗になっていく気がした。
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