◇シャン×チャリオットシリーズ◇

□大樹作品
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ダン。ダン。ダン。

一定のリズムでボールが体育館の床を打つ。

バスケットシューズがキュッと鳴る。

心地良いはずのその音がやけに耳障りに聞こえてしまうのは
この 一枚の 薄っぺらい紙きれのせい。



「あ゛ー…。もうマジでヤダ。俺。」
大好きな部活も身に入らないほどに
この紙きれは全てのやる気を俺から奪っていた。
「シャン?そんなにヘコむことないんじゃないか?」
「あるっつーの!英語だぞ!?このテスト!!こんな点数取って、家に帰ったらどんな目に遭わされるか…。」
「どれ。…41点…。まー…確かに悪いけど…そこまで落ち込む事ないじゃん。お前ん家、親そんなに厳しかったっけ?」

「親っつーか…」
兄貴がこぇーんだよ。
俺の兄貴はこの学校の英語の教師で、俺のクラスの英語も受け持っている。
もちろん、点数はバレバレなワケで。
家に帰ったら何と嫌味を言われる事か。
滅多に実家に帰って来ない兄もこんな日ばかり帰って来てはクドクドと説教をし、地獄の合宿(徹夜で英語漬け)が始まるのだ。

それを思うとため息はますます大きくなる。
イヤだ…帰りたくねぇ…。
「ところで、お前のクラスって英語誰だっけ?」
「…クェーサー先生。」
ため息混じりの俺に、友人は、いーじゃん!と声を張り上げた。
「優しいし、解りやすいし、顔もいいし。何が不満なんだよ。俺、あの先生になら抱かれてもイイかも…vv」
ふざけた調子で体をしならせる友人に、心の中で

(抱かれたいのか、あの鬼に)

毒づきながら。

あの兄に対しての周りの評価は間違っていると、改めて思う。

あいつが俺の兄だとは学校にいるヤツ、誰にも言っていない。

言ったらギャーギャー騒がれるし、また俺と兄貴を比べるに決まってる。

小さい頃から比べられて、その度に負けて来たんだ。
…兄貴のせいじゃないのは解ってる。

だけど、もう たくさんだ。

そこへ、部活開始からかなり遅れて一人の生徒が体育館へとやって来た。
あまりに珍しい人物に、みんな目を丸くする。
「ルミエラ先輩。どーしたんスか!?珍しい!!」
「オイ!ルミエラ、お前ネツでもあるんじゃねーか!?真面目に部活に出てくるなんて…。」
皆が口々にそう言うと、『ルミエラ』はうるせーなと一言だけ言って準備をするために、同じく準備中の俺の隣に腰掛けた。
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