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□無題 M
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彼を見ていた。
ずっと見ていた。
己を顧みないその所作に、最初は酷く驚いた。
全てを殺ぎ落とす、全てを赦さない。
叩き潰すように再起などさせないほどに全てを壊した。
破面がその頂点の十刃が戦う為に存在するとしてもその無法さが彼の中のどこから来てどこへ向かうのかと、興味が沸いた。
最初はそんな動機だったと思う。


彼は私を厭わない。
付いていく私をそのままにしていた。
付いて行こうとする理由を訊かれたことはない。興味がなかったのかもしれないし、或いは私の存在自体どうでも良かったのかもしれない。
いつしか私は彼付きの数字持ちになった。
彼はそれを当然のように容認し、当たり前に私を従えた。
彼は私が正式に彼に付いてからも以前と変わらず全てに容赦をしなかった。
全てに敵意を向け全てを赦さなかった。彼はただ強い者との戦いを望んだ。その意図が私にはどうしても見えなかった。
「ノイトラ様は何をなさりたいのですか?」
ある日彼に尋ねた。不意だったと思う。
彼はこちらを向くと、私を一瞥したが答えようとはしなかった。
―――今思えば、答えなかったのではなく、答えがなかったのかもしれない。
彼の行動は時々彼の迷いを伺わせていたからだ。

それから何年が経ち何十年も経ち「藍染様」が現れた。
藍染様の禍々しい球体「崩玉」の力により更に強くなった彼のすることはただ一つだった。
それは変わらず血を求め、戦いを求めた。
一つ変化があったとすれば、その刃に倒れるものが少しずつ力強い者達になったこと。この頃、彼が良く言ったのは「雑魚をいくら倒しても俺の最強を証明するものにはならねぇ」という言葉だった。

彼は、最強になりたかったのか。
あの無法な所業はその為だったのか。
全てを殺ぎ落とす自らも顧みない切ないまでのあの行為は…。

最強であるという自負を持つための手段。
殺しても殺しても殺しても、彼の最強は証明されないのかもしれないのに。
それでも彼は最強を望む。
渇望するように。
なぜ彼は最強にこだわるのだろうか?
最強になり、何がそれで成し遂げられるのだろうか。
彼は頂点のその先が見たいのか?
それとも得た絶大な力で支配するのだろうか?
私には、分からなかった。
思い浮かべる仮説はいくつもあったがそのどれも違う気がしたからだ。
ただ一つ確実に私が分かることは彼は戦いを楽しんでいたということだ。
彼は強い敵と戦うことに最上の喜びを感じていた。

彼は戦うために強くなったのかもしれない。
純粋に虚として、破面として、そして十刃として……
ある日のようにまた、唐突に尋ねた。
「ノイトラ様の望むこととはなんでしょうか。」
漠然とした問いに彼はいつかのように一瞥しそして今度は返事があった。
「強い敵と戦うことだ。」
以前とは違いはっきりとした言葉だった。

彼の剣が振るう。
多くの血が流れるその最中にいる彼の姿。
その姿を私はただ見る。
加勢することは許されない。彼の楽しみを奪うことになるからだ。
けれど、時々私は私の意思で介入することがあった。
彼に危害が加わると判断した時私は躊躇なく相手を倒した。
彼が憤慨するとわかっていてもだ。
私は彼を守りたかった。
なぜそう思うのか自分でも理由が解らない。
役目ではあるが、役目だけが理由でなかった。
「ノイトラ様に何かあってからでは遅いのです。」
「ねぇよ。」
即座に否定される。
「最強は俺だ。俺が誰かの前に倒れることはあり得ねぇ。」
彼は断言した。
その自信は、その根拠は、一体どこから、何のためにあるのか?前々から疑問に思っていたことを尋ねた。
「ノイトラ様は最強となり何をなさるのですか?」
「何もしねぇ。」
即座に彼は言った。
「俺は何かを成すために最強になるんじゃねぇ。俺は終わるためにあるんだ。」
彼の言う意味が分からなかった。
多分、実際に理解できていない表情をしていたのだろう、彼は続けて言った。
「俺達の存在には最初から救いなんて無ぇ。戦うためだけに存在する俺達に…それは藍染が居ようが居まいが何も変わらねぇ。…だから考えた、どう終わるか、を…。」
そう語る彼の瞳は私を見てはいなかった。ただじっとモノクロの世界を見詰め、その先に何かを見つけるように視線を向けていた。
「俺以外に最強が存在しちゃいけねぇ。最強の敵と戦うためには…だから他の奴らを容赦なく叩き潰す。どんな手段を使ってもだ。」
「最強の敵と戦うため?」
彼が最強に拘るのは…その為なのか。最強の敵と対峙するため、戦い続ければいつか、巡り合う者のために…。彼は勝ち続けなければならないのか。
「戦いながら…俺は斬られて、倒れる前に息絶える…」じっと、理想を語る彼の顔は何もないこの世界のように穏やかで、だからだろうか、彼のそんな顔を見続けるのが辛かった。
彼は生きているのに、まるで死んでいるかのような、否、死を望んでいるのだ。
死を望む彼など私は見たくはなかった。
私は誰より彼に生きていて欲しいから。
そして、呟くように言った最後の言葉が酷く鼓膜に残った。
「そういう死に方をしてぇんだ。」

彼が溢した言葉をその時私はどれだけ理解出来ていたのだろう。
多分、何一つ理解など出来ていなかった。
彼の切なる願いを理解するなど私には到底できないものだったのだ。

彼の望みをこの眼で見た今、心の底から湧き出るこの感情を一体なんと呼べばよいのか…。
渦巻く思いと彼への問い、私は何一つ彼を知ることなどできなかった。

ノイトラ様。
貴方の望みは叶いましたか。
ノイトラ様。
十刃は破面は虚は何なのでしょう。

ノイトラ様を失って私はどうすれば良いのでしょうか?

私はこんなものが見たいために貴方の傍にいた訳ではないのに。


…ただ、涙が溢れた。


end
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