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□無題 S
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何年生きたかなんて、とうに忘れてしまった。
いつから自分であったかももう定かではない。
それを思えば生まれてから十年ちょっとしか経ってない彼はなんと力強く真っ直ぐなのだろう。
一度、至極感心して彼に洩らしたことがあったが、その時彼は何も気負わず当然のように言った。
「俺くらいの歳ならみんなこんなもんだぜ」
「アタシなんかから見れば立派に思いますけどね」
そんなもんですかね、と相槌を打ったがそうではないと心の中で否定した。
「浦原さんは買い被るんだよ」
笑った彼の顔に一片の曇りもやましさもなくて、まるで若木のように爽やかで見ているこっちが驚かされる。
「黒崎サン、アタシはいっぱい失敗をしてきている人間なんです。だから貴方みたいな人を見ていると堪らなくなる」
その言葉をどこまで理解してくれたかは解らない。
解らないが大層驚いた顔を彼はした。
「浦原さんが変なことを言うな」
「変なことをとはなんですか、人が折角誉めているのに」
心外だとオーバーに肩を落とせば黒崎は目を細めて言った。
「俺から見れば浦原さんの方がスゲェって思うぜ。なんでも出来るじゃんか。」
「そりゃアタナよりゃ長生きですからね出来ますよ。」
何当たり前の事を言ってンですか、と言えば笑った顔でその通りだと頷いた。
「真っ直ぐな分、恐ろしく思うときもあるんですよ」
歳を取るとねと溢すと理解できないように首を傾げた。
「狡く賢くなっていけない」
笑った顔で更に続けた。
「貴方みたいにね黒崎サン、真っ直ぐに生きている人を見てると羨ましいと思うと同時に心配になるんスよ」
若さから出る直情的で純粋な動機と行動はその分脆い。
ましてや彼の行動は常に力量からギリギリの選択肢であることが多い。
リスクなど考えたらキリがない程だ。
「大丈夫だよ」
何を根拠にそう言うのか分からなかった。
しかし、彼は何の翳りもなく確信を込めて言った。
「大丈夫、根拠がないとか危なかっしく見えるかもしれないけど、俺は曲がったりしないから」
いつか、挫折してしまうんじゃないか、絶望してしまうのではないか、昔の自分がそうであったように、何にも望みを持てなくなるのではいかと危惧すると同時に、その純粋な志を信じたいとも思う。
それほど、彼の視線はしっかりと私を見ていた。
「そいじゃぁ黒崎サンが凹んだ時には精々アタシが慰めてあげましょう」
茶化して笑う、その瞳すらまっすぐに見れない自分の後ろめたさがどうか彼に気付かれませんように。
終わり