復活 A

□思うこと
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10年後のスクアーロが送って来たというDVDを見ながら、ふと思ったことがある。

10年後の俺はどんな思いでこの映像を見たのか、と。
10年前から何一つ変わっていないこの男の勇姿を見て、画面から語り掛けられるその言葉を聞いて10年後の俺は一体何を思ったのだろう。
大人の俺はメジャーを目指していたと小僧に聞いたけど、画面の彼を見たらメジャーなんて狙っていられないんじゃないかと思った。

だって彼が俺のためにこんなにもさらけ出して彼の全てを見せようと、彼の思いを伝えようとしているのに、 その気持ちを折ることなど拒否することなんて考えられない。

俺からすればちょっと前の彼は俺になんか見向きもしないで、彼の絶対を信じていて、俺なんかが入り込む隙間なんてどこにもなかったんだから。

こんな彼など俺は知らないんだから。

自分なんだけど、10年後の自分に少しだけ嫉妬した。
今の俺なら彼の求めに何でも答えたい。
その瞳が俺を見てくれるならなんでもしたい。
彼の薄い唇が、俺の名前を呼んでくれるなら俺はなんにだってなる。

「会いてぇな。」
今画像に映る彼に会いたい。
10年前の俺を見たらどんな顔をするだろう。
驚くだろうか、それとも悠然と微笑むだろうか?
俺に語りかける画面の向こうの彼は対等な人間として話している。
子供の俺にもそんな態度で接してくれるだろうか。
それとも更に差のついた歳の差を実感させられるだろうか。

この時代の俺は何をしていたんだろう。
どんな風に彼と接していたんだろう。
そんなことばかりがぐるぐると頭を巡る。
どうしたって十年後の自分には会えないから想像しかできないけど、多分あんまり変わらずにいたんじゃないかなと思う。
野球が大事で、親父から受け継いだ剣も大事。
この時代では親父はもう居なくなってしまっているからもしかしたらちょっと違うかもしれないけれど。

確かに野球は大事だ。
俺から野球を取ったら何にも残らなかった。
今は時雨蒼燕流もあるけれど、やっぱり野球はまた違う特別なものだ。
体の一部みたいに自然と自分の中にあるもので離して考えることは出来ない。
だけど彼との関係はそれと同じくらい大事なんじゃないかなと思う。

だから会いたい。
ちゃんとこの目で本物を見て触れて声をかけてみたい。

けれど募った想いはきっと届かない。

「やっぱ10年前に戻るのが先だよな…」
この未来は望ましい未来ではない。
皆が苦しんでいる、自分も本当ならこんなところに居る筈ではない。
居てはいけない存在なのだ。
未来を変えて、過去に戻らなくてはいけない。

未来を知ることで俺は自分の未来を、彼に対しても何か変われるだろうか。
これから無事に帰った過去で自分は何ができるのだろうか。

やっぱりスクアーロに会いたいなと、そればかり思う。

だってきっと彼は理解していない。
俺の覚悟も気持ちも。
彼にとってはまだ俺は子供で幼くて多分頼りない存在だろう。そしてまだ取るに足らない存在の筈だ。
けれど伝えれば、伝え続ければ、いつか伝わるかもしれない。
彼がこのDVDを俺に送り続けたように。

だからまずは過去に戻るために強くならなくちゃいけない。
彼の技を見て盗んで少しでも強く。

過去に帰ってもし彼に会うことが出来たら、その時は彼の技を目の前で使って見せよう。
驚いてちょっとは違う風に見てくれるかもしれない。
なんて都合良く事が動くとは思わないけどけれどそのくらいは考えたっていい筈。
「会いたいな」
十年後の彼でも俺の知る彼でもいい。
何時か、どんな形でもいいから会いたくて堪らない。

会って一言絶対言うのだ。
「アンタに敵う男になる」と。



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