復活 A

□マンマ・ミーア!
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バカンスのシーズンも過ぎたし、クリスマスまでにはまだ随分と間がある時期だった。
ボスが突然言ったのだ。
「出掛けるぞ」と。
別に、ボスが急に出掛けることはしょっちゅうだしガードも付けずに外出するよりずっといいから二つ返事で同行した。

したが、今その事を激しく後悔している。
どうしてこうなったのか、誰か理由を教えてくれ。

*******

ザンザスの愛車ランチア・テージスが止まったのはみどりの静寂の中に佇む瀟洒な館の前だった。
「ここ…どこだ?」
車を降りたスクアーロが開口一番に言った。
少なくとも住み慣れたシチリアではないことはなんとなく解った。
空気が匂いがどことなく違うのだ。
だが、それ以上なんの手がかりもなく見たこともない館に周囲をキョロキョロと挙動不審に見回す。
「少しは大人しくできねぇのかカス」
スッとスタイリッシュに車を降りたザンザスは何の迷いもなく邸宅の中へと入って行った。
「ボ、ボス…?」
「何だ?」
呼び止めれば勿論立ち止まってこちらを向く。スクアーロはまだ敷地の中にすら入ってはいない。
「訳がわからねぇんだけど?」
状況が飲み込めないことを素直に口にするとザンザスは当然と言わんばかりに言った。
「出掛けると言ったろうが」
「出掛けるって言ったけどよ…」
確かにスクアーロは出掛けると言われて付いててきた。だが、こんな見知らぬ土地に連れて来られるとは夢にも思っていなかった。
「聞きてぇんだけど…ここどこだ?」
恐る恐るザンザスの表情を伺いながらスクアーロは尋ねた。
何がザンザスの逆鱗に触れるか解らないからだ。
しかしボスは気にした様子もなく端的に答える。
「アマルフィだ」
「え…」
その土地を知らないわけではない。寧ろ良く知っている。
ザンザスが口にした地名は誰だって知っている世界遺産、そして高級リゾートとして有名な場所だった。
「な、な、何でそんなとこに…」
ワナワナとスクアーロの体が震える。
そして地名と目の前の館が急に繋がる。
「この家どうした」
聞くのが恐ろしいが聞かずにはいられなかった。
「買った」
何でもないことのようにザンザスが言う。
その言葉にスクアーロは卒倒しかけた。が、こうじて堪えた。倒れている場合ではない。
アマルフィはナポリ近くのリゾート地、世界一の海と呼ばれアマルフィ海岸一帯は世界遺産に指定されている。
そこに土地付きの邸宅を買ったなどとザンザスが事も無げに言うのだからスクアーロは目眩を感じてもなんの不思議もない。
寧ろ平然としているザンザスの方がおかしいと思える位だ。
「そんな金どこにあった?」
高級車一、二台ならそれほどどうとも思わない。しかし高級リゾートの別荘など事がことだけにスクアーロはザンザスに詰め寄ってしまった。
「俺名義の館がなかったからな…」
「そんなもん要らねぇだろ」
ザンザス名義でなくたってボンゴレや9代目名義の別荘ならいくらでもある。
それを使うのが嫌ならばホテルに泊まればいいだけのことだ。態々別荘を買う理由にはならない。
「金の心配はするな」
「根拠を教えろぉ」
いくらボスが言ったとしても詰らずにはいられなかった。どう考えてもキャッシュフローだからだ。
面倒になったのか、ボスはスクアーロをちらりと見ると言った。
「会社を作った」
「は?」
「投資会社だ」
「え」
スクアーロはザンザスの言葉の意味が瞬時には理解できなかった。
ポカンとザンザスを見つめる。
ザンザスは気にした様子もなく続けていった。
「実態はほぼねぇ…マーモンに任せてある」
つまり、ザンザスは金儲けを趣味とする守銭奴の赤ん坊に最高の環境を与えたのだ。
「マーモンには一定の利益を上げればそれ相応の報酬を与えることになってる。」
赤ん坊が利益を上げないわけがない。間違いなくボロ儲けしている筈だ。
スクアーロは別の意味で目眩がしてきた。
「いつからヴァリアーは金稼ぎの組織になったんだぁ」
呟いた言葉にザンザスが答えるように言った。
「何れ必要になることだ」
「?」
それはどういうことだと尋ねようとしたスクアーロの腕をザンザスが掴みそのまま力づくで敷地の中に引きずり込まれる。
「これで文句はねぇだろうカス、とっとと入るぞ」
立ち話は無用と広い庭付き一戸建ての扉を開いた。

「お待ちしておりました。」
「!?」
玄関入り口にて見知らぬ男に出迎えられスクアーロは面食らう。
反対にザンザスは予期していたことなのだろう澄ました顔をして男に言った。
「待たせたな」
「申し付かっていたことは全て整えてございます。よいバカンスを…」
男はザンザスに恭しく一礼をし道を開ける。
ザンザスは一瞥を向けるだけで男とそれ以上の言葉は交わさず屋敷の中へと進んでいく。
スクアーロは男の存在にも言葉にも驚きが隠せない。
ザンザスと同様に見知らぬ男はスクアーロに対しても柔らかな笑みを浮かべて出迎えていた。
違和感が強くてスクアーロは強張った表情のままザンザスに尋ねた。
「ボス、誰だ…?」
「ここの管理を任せている」
ザンザスは素っ気なく答えたが、そんな答えが欲しかったわけではない。
「どこのファミリーだ?」
「ボンゴレだ。」
信用できるのか…と目で問い掛けるがボスからは何の返事もない。
もしかしたらこれ以上の返答を拒否しているのかもしれない。
それに男の言った言葉にも引っ掛かるところがあった。
「ボス、バカンスって…?」
スクアーロは状況を正確に把握するためにザンザスに続けて尋ねた。
「テメェと俺は今日から長期休暇だ」
「は…?」
ヴァリアーにそんな就業規則はなかった筈だ。そもそも会社ですらない。
暗殺部隊に似つかわしくないその単語にスクアーロは顔をひきつらせた。
「長期休暇って」
「今日からここでバカンスだ」
ザンザスから出たバカンスという言葉が本人にあまりにも似合わない。
不気味なものを見る目でソファに寛ぐザンザスを見る。
ザンザスの一方的な言葉にスクアーロはただただ困惑していた。
「明日任務が入ってたぞ」
自分のスケジュールはちゃんと頭の中に入ってる。
任務をどうするんだと暗に責める。
それにもザンザスは表情を変えることなく答えた。
「他の奴等が行く手筈になっている」
つまり自分だけが知らされていなかったのか…もしかしたら最初から仕組まれたことだったのかもしれない。
理不尽な気持ちが上るが今更ザンザスを怒る気持ちにもならなかった。
ザンザスのやることにいちいち怒り狂っていたらヴァリアーの隊員などやってはいられない。
諦めたようにボスの向かいのソファに座る。
「…海以外なんもねーぞここ」
しかもシーズンオフだ。
アマルフィは海岸線がとても美しくビーチとしては最高だが逆に言えばそれしかない。
近くには観光名所もあるがザンザスがそんなものに興味があるとはとても思えなかった。
「観光じゃねぇバカンスだっつってんのがわかんねぇのかカス」
ザンザスは言葉の差違を言うがバカンスと観光の違いについて理解を深める気はない。
スクアーロは別の切り口から攻めることにした。
「長期休暇って…俺は別に休暇扱いじゃなくてもよかったんじゃねぇか?」
ザンザスと共に居るだけならスクアーロの扱いは護衛で十分だ。
どうせ休暇だろうが任務だろうがザンザスの側にいる以上スクアーロの役割は変わらない。
しかしこれにもザンザスは反論した。
「任務でバカンスなんてねぇだろうが」
それはそうだがしかしスクアーロにも譲れないところがある。
「俺の役割は変わらねぇぞ?」
「今日は運転させなかっただろうが」
いつもならスクアーロが車の運転をするが今回に限っては運転手がいた。
後部座席に二人で座ったのは確かだ。
そんな意味があったなんて思いもしなかったスクアーロは驚くというより呆れていた。
細かいというか、変な区切りをつけたがる。
そんなことなら隊服でなど来なければ良かった。
「行く前に一言言ってくれれば良かったのに」
ポツリと呟いてしまった。
聞こえていたのだろうボスが地方紙を広げながら言った。
「…それじゃあ意味がねぇ」
「!」
その言葉に今までの行動の真意が見えた。
「…女じゃねえぞ」
自分は間違っても女になど生まれていない。
またサプライズを喜ぶような女のような性格はしていない。
「うれしいと言うとでも思ったのかよ」
呆れるより他ない。
据わった目で紙面を捲るザンザスを見てしまった。
ちょうど座った先ザンザスの後ろに青い海と岸壁が映った。
「まぁでも…」
続けて言った。
「いいとこだよな」
世界遺産に文句を付ける気はない。
世界一美しい海は誰の目から見ても美しい。
「ボス、海好きかぁ」
問い掛けるとボスが紙面から顔を上げた。
「お前はどうだ?」
その瞬間鮮やかな海のブルーにザンザスの黒い髪が深いコントラストを作る。
「好きになれそうだぜぇ」
笑って答えた。
今まで海に特別な感情を抱いたことはない。
けれどこの海なら好きになれそうだった。
その答えに満足したのかザンザスもニヤリと笑った。
そんなザンザスを見てスクアーロも少しずつ気持ちが浮わついていていく。
「今からでも海に入れるといいなぁ」
無理かぁと言えばザンザスが得意気に答えた。
「泳げるぞ」
「…でも、水着もなんにもねぇ」
訊いた後に着の身着の儘で着たことを思い出す。
「ある」
スクアーロの溢した言葉にザンザスは自信満々に答えてスクアーロを驚かせる。
「何の為にあの男をここに寄越したと思っている」
いつもの不遜な態度で言われる。
「え?」
「これから過ごす間に不足するものは何もねぇ」
ザンザスがそういうと男がどこからかやって来る。
その手には水着が二着用意されていた。
この分だと本当に全ての用意されていそうだ。
「何だ、文句でもあんのか?」
なんとも形容しづらい顔をしていたのだろうザンザスが不満気に尋ねるから、スクアーロは首を振った。
「いや…楽しいバカンスになりそうだな」
もう、ここに無断に連れてこられたことは怒ってはいない。
むしろこれから何が起こるのだろうと楽しそうな予感に期待が膨らむ。
どうせなら楽しみたい。
なんと言ってもザンザスが自ら用意したバカンスだ。
「ボスが何をしてくれるのか楽しみだぜ」
向かいに座るザンザスに笑っていった。
「期待していろ」とザンザスがボスとしての威厳と自負を持って答える。
スクアーロは「勿論」と答えてザンザスに触れるだけのキスをした。


end





13333hitリク
鎖南様へ
ザンスクで休暇を取って別荘へ行く、です。
すいません。
セレブレティの別荘が思い付かず貧相な脳ミソではこれが精一杯でした…世界遺産、買えるか分かんないですがもうボスだしザンザスだしやれるだろうと思います。
ご不満ありましたら悦んで書き直しますので、ご連絡ください。
でも、リクありがとうございましたァ!

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