復活 A

□ハピネス
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ボスが隊服以外の洋服を着ているところを見たのは、出会った頃を除いて、これが初めてだったかもしれない。
しかもラフな格好ではない。きちんとしたドレスコードの装いだ。
驚いて目を瞠る。
「ボスなんか…あんのか?」
忌々しげにカフスボタンを止めているボスにスクアーロは声をかけた。
「カスか」
ザンザスはこちらをちらりと見たが、それ以上の言葉はなかった。
何時もは胸元を広く開けているシャツも今日はきちんと着ている。首元には淡い色合いのネクタイが締められていた。誰がコーディネートしたのかわからないがボスに良く似合っていた。
その姿に少なくともヴァリアーとしての仕事ではないことは判った。
と言うことはザンザス個人への本部からの召集だろうか。
「…本部に行くのか?」
躊躇いがちに尋ねたがボスは答えようとはしない。
カフスボタンを付け終わると側に掛けてあったブリオーニのスーツを素早く羽織った。それも、ボスが持っているスーツではない。少なくとも俺は見たことがなかった。
「出掛けてくる」
通り過ぎさま良く通る声で言った。
どこへともなにをしにとも言わない。
スクアーロは詰め寄りたい気持ちを押さえて見送った。
自分のボスが言おうとしないことに部下が口出しすることは許されない。
通りには既に用意されていた黒塗りのリンカーンが横付けされていた。
ボスの持っている車ではないことは判ったが、誰のものかは定かではない。
チェックも通さずにそのまま乗り込む様子を見れば同盟ファミリーか本部の車なのだろう。前後にガードの車が付いてた。
ボスを乗せ静かに発進する車を付いて行きたい気持ちを抑えて見送りスクアーロは屋敷の中に戻った。

窓ガラスから小さくなっていく車の背を見続けた。
ザンザスが誰に何の用で出掛けて行ったのかはわからない。
8年間、彼には空白がありその分関わりがある人間は少ない。
ヴァリアーとしての彼ではなく、ザンザス個人として或いは9代目の息子としてのザンザスとなれば尚更だ。
これまでも本部やボンゴレ9代目の息子としてのザンザスに何度か召集はあったが、理由を付けて拒否してきた。
9代目もザンザス本人もボンゴレ本部の表に出ることを言葉には出さないものの暗に拒んでいた。
それを今回に限ってはザンザスは受けたのだ。
断れない程の何かがあるとしか思えない。
嫌な予感ばかりが胸の中に広がる。
最早見えなくなった車の背を睨むようにきつく見つめた。
「あら、スクアーロどうしたの?外なんか睨んで…」
声を掛けたのはルッスーリアだ。スクアーロは胸中の不安など表さず端的に答えた。
「いや…ボスが出掛けた」
「そうみたいね」
既に知っているのか特別驚きもせずにルッスーリアはスクアーロに答えた。
「どこに行くって?」
スクアーロはルッスーリアにそれとなく尋ねた。自分が知らないことを知っていたことに驚くが、それはおくびにも出さない。
「アラ、貴方の方が知ってるんじゃないの?」
逆にルッスーリアに尋ね返される。
「いや…」
言葉を濁して答える。
ルッスーリアは気にした様子もない。
「ボスだけが呼ばれるってよっぽどじゃない?…まぁ私達なんかには預かり知らないところの話なのかもしれないけれど…」
本部が動くのかしらね、と不穏な言葉を口にする。
「そんな話があんのか?」
ルッスーリアの溢した言葉に尋ね返すがルッスーリアは首を振る。
「私は聴かないわ…ただね、私たちの処分はもう決まったし…本部からボスに何かが来てもおかしなことはないでしょう?」
ルッスーリアの言葉は確かに頷けることだった。
「…そうだな」
「私たちはボスの意志に従うだけよ。今まで通りこれからも変わらずずっと、そうでしょスクアーロ?」
「ああ」
なんだかルッスーリアに諭されてしまったような気分になる。
「でも、遅くならないと良いわね。晩御飯の時間もあるから…」
困ったわね…と頬に手を添えてルッスーリアが嘆息する。
彼のセリフはある種のおおらかさの成せる業かもしれない。
「待ちましょう…私たちにはそれしかないんだから」
スクアーロの焦る気持ちと不安を察してかルッスーリアは最後にそう声を掛けてスクアーロの側を離れた。スクアーロは思う。
いつもそうだった、ザンザスのことに関して自分は待つことしか出来ない、と…。

end


ハピネスは仮題です。
すいません。
…内容的には続く雰囲気です…

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