復活

□promessa
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「我が子ザンザスは暫くの間休養を取る。その間はスペルビ・スクアーロに任せることとした。」
ボンゴレ九代目が厳かに幹部達に向かって言った。
詳細を知っている者は極僅か、他の幹部は突然の言葉に動揺を隠せずにいた。
大きなクーデター、後に「ゆりかご」と呼ばれた反乱が鎮圧されたとはいえ首謀者は見つからず未だ完璧な解決とは至っていない最中の出来事、次々と暗殺されていった後継者の中たった一人残った御曹司の急な療養となれば幹部達の行く末を案ずる声も出てくるのは至極当然とも言えた。
ボンゴレ9代目の傍らに立つ少年はざわめく周囲を一瞥した。短い銀糸の髪が跳ね上がる少年の名をスペルビ・スクアーロと言った。この件における賛同や採決は必要なかった。ボンゴレボスの決定は絶対であり、その言葉に否を唱えることはあり得ないのだ。
ざわめく周囲に言うべきことを言い終わった初老の男は席を立とうとする、その後に少年は静かに付いていく。
部屋を出て大きな回廊に差し掛かる、これより先はボンゴレボスの私的な館だ。
少年はその回廊の真ん中で立ち止まる。
「どうかしたかね?」
随行することが当然と言うように立ち止まった少年を振り返り9代目は言った。
「アンタの目的は何だ?」
ボンゴレの頂点に立つ男に対し少年は不遜なほど横柄に言い放った。
対峙したボスはそんな少年の態度に不快感を現すことはなくただ、少年を見た。
少年はゆりかごの後、拘束されこの離れに軟禁されていた。「首謀者」とはあれ以来会えていない。安否を聞きたくとも聞くべき相手が居なければそれすら叶わなかった。アイツはどうしたのか無事なのか、この短い間にそればかり気になった。
目の前の人物はその答えを知っているが、スクアーロは敢えて目の前の人物には尋ねなかった。
今朝方9代目の従者がやって来て外へ出るようにと促された。そして先程の幹部達への発言で自分を呼び出した理由が解った。
首謀者の最も身近だった自分を何故彼の後任に任じたのか。
「俺はあんな地位必要ねぇ」
地位など初めから欲しがってなどいなかった。まして制裁を加えるべき人間に対しこの処遇は一体なんなのか…。9代目の行動に疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「ザンザスには君が必要だ。」
平然と自分を亡き者としようとした「首謀者」の名前を出す9代目の返答はスクアーロには満足のいく答えではなかった。
「オイ。」
それはどういう意味だと問おうとしたがそれ以上の答えはなかった。
「あの子に本当に必要なものは既にあると、私は思っている。ザンザスがそれに気付くまで、それが何年掛かろうとも私はあの子を待とうと思うのだ。」
「全てがアンタの思い通りに動くと思うなよ。」
総てを理解しているような言葉にスクアーロは怒りの感情が膨らむ。
怒気を露にして言ったが、相手には通用していないようだった。逆にこう言われた。
「では、こう考えたらどうだろう。君はザンザスが戻って来るまであの子の地位を守る、と考えては。」
確かに、そう考えるこても出来るかもしれない。
だが何故俺に?という疑問の答えにはならない。とはいえ、それとは別に9代目の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「…アイツは…ザンザスは…戻ってくるのか?」
「時が満ちれば、それも有り得るだろう。」
9代目は静かにそう言った。その眸はスクアーロを捉えずもっと遠くを見ているようだった。
言われた言葉端に感じる違和感に眉をひそめる。
「生きて、いるんだな…?」
問うまいと決めていた問いを口に出した。その言葉を発した時喉が掠れた。情けない事に小刻みに震えていることに自分で気付いていた。
ボンゴレ9代目は是とも否とも答えなかった。
「時がくれば、何れ判るだろう。」
言われた言葉の真意など解ろう筈もない。分かろうとも思わなかった。理解しようがしまいが言うべきこともやるべきことも変わりはなかったからだ。
「俺はアンタを敬う気はない。ザンザスの遺志は俺が継ぐ。」
付いて行こうと心に決めたのは唯一人だ。それはこの偽善者ではない。
「健気なことだ。」
初めて老人は笑った。目の前で殺すと宣言したも同然の少年に向かい優しい笑みを浮かべた。
「どうか、君はザンザスと共に居てくれ。」
慈愛の笑みに吐き気がした。苛立ちにも似たムカつきが胸に上る。
「喩えアイツが俺を否定しても、俺はアイツの側を離れる気はない。アイツの意志は俺の意志だ。」
老人の願いも彼の人の思いも無視してすべては自分の意志で行動していると言った。
クーデターに加担し目の前の男を殺そうとしたことも。
自分の決断に迷いも後悔もない。これからもあり得ない。
「…その左手もかね?」
「そうだ。」
9代目が目を向けた左の黒い手袋の下には血の通わない手がある。
先の剣帝との戦いで落とされた左手は紛れもなく自分で捨てたものだ。
「若さがそうさせるのかね?」
身を切る、捨てるという行為を快く思っていないように眉を少し歪めて言った。
「アンタがどう思おうがそれはアンタの勝手だ。俺にとって左手を無くしても足るものを掴んだ。それだけの事だ。」
掴んだものが何であるか、は声に出さなくても分かるだろう。
9代目はスクアーロをじっと見つめ、スクアーロも視線を外す事はなかった。
「そうまでさせた、君はあの子に何を見い出したのだ?」
「俺には持っていないものを持っていた。それが一目でわかった。それだけで十分だ。」
左手を失ったことなど探していたものを見い出したその喜びと満足感に比べればなんとも些末なことだった。
彼の為に自分は生きそして死ぬと誓ったあの日からそれは決して変わらぬ思いのままだ。喩え今、その姿が見えなくても、生死すら解らなくても一分もぶれずにスクアーロの心にはある。
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