復活

□非日常
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世界が遠のくのは、自分が遠ざかるから、だろうか。

長閑な日だった。

秋めいた爽やかな空に薄く延びた雲が浮かび、風は心地よく頬を擽る。
無音に近い穏やかな日だった。

いつものような生活音は殆どせず、うるさい居候も姿を見せなかった。
いつも迎えにくる彼も、小さな子供達も、出会わなかった。

野球少年も、風紀委員長さえも、いなかった。
どうしたんだろう。
長閑な平和な日に違和感を覚える。
空はこんなにきれいな蒼で、風は頬を穏やかに撫でているのに。
何の変哲もない、日が、無音の平和がひどく不安にさせる。

「どこ?」
小さな声でたずねた。
まるでかくれんぼの鬼みたいに、見つからなくて途方に暮れた時のように小さく。

いつも穏やかに過ごせたらいいと思ってた。
煩くなければいいとて思ってた。
自分のことを気遣ってくれるのは嬉しいけれどそれがほとんど裏目に出ているようなことも勘弁してほしいなと思うときもあった。

今日はまさに望んだ、その通りの日だ。
けれど、

「ねぇ、どこ?」
誰に問うわけでもない。
明確な誰かを探したい訳でもない。
ここは、どこなんだろう。
見慣れた道、見慣れた商店街、見慣れた学校、景色はありふれた日常の筈なのに、少し以前までは確かにこれが自分の日常だったのに、今はもうそれが日常だとは思えない。

静けさが、耳に痛い。
落ち着かない、空気すら毛羽立ったように細かい痛みを皮膚に与えているみたいだ。
静寂が逆にざわつく。

今出てきた家も、もしかしたら、本当の家じゃなかったのかもしれない。
そんな気さえしてきてしまう。
いつもの、煩いくらいの泣き声も、不快な腐臭も、銃声も爆音も聞えないなんて。
世界はもっと雑音だらけだった筈だ。
静寂なんて本当は無いんだ。
いつも微かにでも音は存在していて、いつも、それを気にしたり、気にしなかったりしながら生活してきたはずなんだから。

「どこ?」
問いかけても、どこからも返事など無い。
勿論期待などしていない。
響かない音はまるで拒絶されているようで、この世界が僕を拒絶しているみたいで、触れている風さえ、呼吸している酸素さえ自分から遠く異質な物に思えてきた。

ちょっと前までは世間は自分に無関心だったはずだったのに、そう、世界は自分に無関心だったはずなのに、何をしても期待されない、実力もない、自信もない、自分だったのに、どうしてそれが今、違和感だらけの世界になってしまったんだろう。

疎外感
久しい感覚
寂しい

短いながらに生きてきた人生の中で傍に誰もいない時間の方が多かったのに・・・・。

それが今は淋しい、心細い、不安。
誰かいて欲しい。
硝煙も銃声も今なら何だって愛しいと思えてしまう。
喚きも泣き声もざわめきも 今なら・・・・。
世界が遠のくのは、自分が遠ざかるから
悔やまない。後悔しない。
俺には必要だから。
「十代目。」
「ツナ。」
やっと見つけたそして手に入れた。
小さな俺の世界。
世界が遠のくのは、自分がこの世界と決別したから。

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