復活

□箱庭
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「世界は遠く隔絶された・・・・」
貴方の居る世界
貴方が意識している世界
住み生きている世界
それはなんて狭くて脆弱な事か・・・・

俺には酷く粗末な世界が貴方には尊くて大切なものなのだと何度も貴方は俺に教えてくれた。けれど、俺はもっと広くもっと深遠な世界を知っていて、貴方が思うほど、そして俺に語るほど俺はこの世界の素晴らしさや尊さを感じる事はなかった。
「こんな世界に価値など無い」
小さなコミュニティの無力な人間のただ屯し集団としたこんな世界が尊いものには見えない。
他愛のない事で騒ぎ笑い合う。
そのくせ小さな奇異を異端とし排除する。
嫌気がする。
簡単な権力と見え透いたヒエラルキーにうんざりする。
それなのに、貴方はその世界が尊いという。
大切だと言う。
俺には理解できない。
けれど、貴方がここにいるという素晴らしさ。
それは俺にはよく解る。
貴方はその事については酷く無頓着で、その価値を理解はしていないようだ。
「貴方がいるならこの世界には価値がある。」
貴方が、そう、貴方が貴方のままで居ることにもしこの世界が必然で必要不可欠ものだったらこの世界には確かに価値がある。
貴方を育んだ世界、この世界が貴方のバックボーンだから貴方には大切なのかもしれない。
大体の人間にとって生まれ育ったところは大切なものなのだろう。
貴方は尊い。
貴方だけが「この世界」で一番尊い。
「十代目。」
貴方の名前すら尊い。
それは、あの歴史と格式あるファミリーの血が流れているからでもあり、貴方という一個人の素晴らしさでもある。

あなたを示す言葉一つ一つに俺は感動を覚えるのだ。
しかし、俺にはその名を呼ぶ資格はまだない。
「十代目。」
「何?」
呼び掛ければ何の疑問もなく見上げ微笑んでくださる。
それら全てが俺には尊い。
「お呼びしたかっただけです。すいません。」
用も無いのに呼び止めてしまったことに申し訳なさを感じて、曖昧に笑ってしまった。
「?」
少し首を傾げて、なんでもないならいいや。と彼は俺から視線を外しまた視線を戻した。
貴方は目の前のことに夢中で俺のほうを向く気配は消えてしまった。
申し訳ないと思っていたのに、そのクセ反らされてしまえば、ほんの少し、たったそれだけの事が寂しい。
彼の視線が自分から反れていってしまうそれが酷く悲しい。
子供のようだと自嘲気味に笑った。
彼の視線を独占して?
彼のすべてを自分だけに向けたいと思う、自分自身に呆れると同時に諦めが募る。
それだけ俺の世界は彼が中心で彼無しでは存在し得ないのだ。
貴方だけが今の俺を構成している全てに意味を持たせることが出来るのだ。
そうでなければ、こんな東の外れの島国に俺は来たりなどしなかった。
本当なら疎んじはしても尊びはしない俺の半分の血に俺は今何よりも感謝する。
この血の分だけこの先、俺は彼に一番近い人間になれる。
あの世界で、俺は彼と同じ世界を共有できる。
小さな殺し屋よ、俺をこの人に会わせてくれてありがとう。
南の半島にいたら俺はこの人には出会えていなかった。
母よこの島国の人間でくれて感謝する。
この血を俺に与えてくれてありがとう。
そうでなかったら、俺はこの人に出会えなかった。
俺は俺の本当に欲した物に気付かずに生きるところだった。

その名を呼べるように俺が貴方にふさわしい人間になるように、今はただ貴方の傍で努力する。
そして貴方が誰よりも俺を頼りにし信頼し、信頼し合える人間になる。
真の意味で「右腕」になれるように。
貴方がこの世界からもっと深遠で広いそして何よりも厳しい世界に身を置くようになっても、俺はあなたの傍に居て貴方を守れるように。
そこはここほど、生ぬるくも優しくもないところだけれど、その分強く雄雄しく在らねばならない所であるけれど。
貴方がなにものにも動じず、なにものにも傷付かないように・・・・。
今のように笑い、今のような瞳を俺に向けてくれるように。

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