復活

□僕らなら
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「獄寺君は、俺のこと名前で呼ばないね。」
下校時の何気ない会話の一コマだった。俺はそう言った彼の顔を数秒見つめてしまったと思う。彼の大きな瞳が呆けた馬鹿みたいな俺の顔を映しているのが良く解った。
「十代目の御名前を呼ぶなんて、そんな恐れ多い・・・」
俺は、取り繕って、そして何より恐縮して彼に言った。
「なんで?山本みたいに気軽に呼んでくれたらいいのに。ツナって。」
屈託無く笑う。
それがいけないのだ、と彼には言えない。
この際、二人きりの下校時であの男の名前が出た事など、気にしない。
アイツは俺と違って、眼前にいるこの人の偉大さを知らないからだ。
「そんなファミリーのボスの名前をお呼びするなんて、俺には出来ません。」
俺なりに言葉を選んで言ったつもりだったが、彼の表情は曇ってしまった。
ああ、いけない。
本当はそんな顔をさせたい訳じゃない。
「もし、俺のことあだ名で呼びたくなったら、いつでも呼んで。」
曇った顔は一瞬で、明るく笑顔でそう言った。
返事はしなかった、頷く事さえ出来なかった。
それは俺の選択には無かったし、なにより微笑んだ彼に見蕩れていた。
「十代目って変じゃん。」
彼はそう言う。何が変なのか俺にはまったく理解出来なかった。
彼は正当なるボンゴレファミリーの後継者なのだから、「十代目」と呼ばれるのはむしろ自然に思っていた。その自然を俺はありのままに言ったつもりなのに、彼には伝わらない。
「俺まだ中学生だし、ダメだし、マフィアになんてなる気無いし・・・リボーンが来て、リボーンはメチャクチャだから時々迷惑だけど・・・・獄寺君とか、友達が出来て嬉しいし・・・。」
身長差で十代目が俯いてしまうと柔らかな髪の毛しか見えなくなって、彼の印象的な瞳とは表情とかは見えなくなってしまったけれど、きっと恥ずかしさで小さくなっていく声が何より可愛らしかった。
「十代目はダメなんかじゃねースよ。」
俺の言葉はやはり彼には伝わっていないようだった。
俺は貴方に救われたんだと言いたかった。
けれど、そこまで言うと彼には知らせたくない事まで話さなくてはいけないので俺は言わなかった。
「ダメだよ、未だに何やっても上手く行かないし・・・・。」
勉強も出来ないし、運動だってダメだし・・・。
自分で言ったことに自ら落ちこんでゆく、只でさえ撫で肩の小さな肩が、形を無くして行ってしまう。項垂れた彼はますます小さく見えた。
俺にはそんな表面的な所などどうでもいいのに、彼の素晴らしさは他に沢山あるのに、当の本人はその魅力にまったく気付いていないのか・・・そんな所さえ良いのだと思ってしまう。
「そんなのどうってことないっスよ。」
「獄寺君にはわからないよ。」
出来ない人間の気持ちなんてさ、と膨れた様に彼は言った。
「十代目は今のままが一番です。」
語彙が足りない。
こんな言葉じゃ本当に伝えたい意味なんてきっと彼には伝わらない。
でもこれ以上何かを言うのは不自然だし、何より彼は信じないだろう。
「いいよ、もう・・獄寺君。」
思った通り誤解されてしまった。
違うと言っても、そうだと頷いても本心では信じてもらえないのが悲しい。
全て本心で本気なのに、何を犠牲にしてもいいと思うほど本気なのに。
それがまったく理解されていないのが、悲しい。
だんだん、本気にしてくれない彼を恨むというよりは本気にされるまでもない自分に落ちこんでいく。本当は何より信頼されたいのに・・・・。
「いいよ、別に無理してって・・・・言ってないからさ、ねぇ獄寺君・・・。」
彼は焦った様に言った。俺はハッとしてまた彼の顔を覗いてしまった。
「え、あ・・・。」
俺が1人で苦い顔をしていたのを誤解した様だ。
「名前呼ぶのそんなに嫌?」
眉根を寄せて彼は尋ねる。嫌になることなんて絶対に有り得ない。
「いえ、そんな事は無いです、そんなんで変な顔したんじゃなくて・・・・俺、十代目に信用されてないのかなって・・そう・・思って・・・。」
自分で言っていて更に落ちこんでしまった。俺はまだ十代目に信頼される部下でないのだ。
「なんで?俺、獄寺君のこと信用しているよ。」
しかし、十代目は笑顔で俺に言う。
その顔が俺にはとても眩しく見える。
「獄寺君いつも俺の味方をしてくれるじゃん。」
ねぇと頭を少し傾げる。
無邪気な笑顔だ。
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