復活

□剣に生き剣に死す
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「手に入れる」

「誰にも譲れない」

同意語を
俺は知らない。


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人食い鮫と仇名された男がいた。
俺は単純に年の端もいかない少年というその男に興味を持った。
近付く事は簡単だった。
なんの苦労もなく男の方から近付いて来たからだ。

けれど彼は俺に興味があった訳でなく、俺の近しい人間に興味があったらしい。彼はその男に会うと不敵に笑った。
このシュチュエーションをこの対立を自らが出演したように彼は男の目の前に立ち好戦的に見上げ挑発的に笑みを浮かべた。
「俺と戦え。」
端的な言葉だったが、それが全てを表現していた。
戦えと言った相手は「剣帝」と称される程の男。それに向かい尊大なほどの態度を彼はとった。
勝敗は目に見えていた。
馬鹿なことを…と俺は思った。多分やりとりを見ていた者全員、いや、言われた剣帝テュールとてそう思ったに違いない。
剣帝は苦笑して彼をたしなめた。
「そんな事をして何になる?」
暗に予想される結末を不毛だと言いたいのだろう。
「何に成るかはアンタ次第だ。」
一分の引けもとらない見上げる視線は一層鋭さを増した。腰に差した細い刀を鞘から抜くとついと剣帝の喉元に付き突けた。
「抜け、俺と戦え。」
これ以上の挑発はないだろう。剣帝は左右に小さく首を振りそれから自分の愛剣を手にした。スラリと抜かれた刀芯をしなやかに彼に向けるとフェンシングのように切っ先を彼の剣に触れさせてチンと高い音が鳴った。
殺那、交錯する剣と剣。
金属の当たる高い音と踏み込む足音。無造作、無為無策のように踏み込んでいる様に見える彼の太刀筋。それを最小限の動きでかわすテュール。全てをかわされても驚いたり怯んだりすることはなく寧ろ喜々とした笑みを彼は浮かべる。
「そうでなくちゃいけねぇ。」
汚い言葉とは裏腹にひらりと美しく舞うように太刀筋を変えた。
「これでどぉだぁあ!?」
切り返し、反撃を撃つ。しかし剣帝は太刀筋の変わった攻撃をもいとも容易くかわす。
「やるなぁ!」
全く変わった太刀筋すらかわされても尚喜々として剣を繰り出す。二人の攻防は続き決着は付きそうになかった。
これほどとは…観客と化していたギャラリーが口々に呟く。歳端もいかぬ少年がこれほどの能力と才能があったことに関心していた。勿論、ここにいる誰一人として剣帝が負けるなどという事は予想していない。
観客とは別に一人語落ちる。
「チェックメイト…にはならねぇか。」
相手は剣帝。そう易々と決着がつく筈もない。
一見荒っぽい雑な動きに見える所作はしかし確実に剣帝の攻撃をかわしている。それは決して剣帝が手を抜いているからではない。傍目から見ても剣帝の繰り出す剣は素早く素人は勿論並の剣士ならばすぐさま倒されてしまうだろう。
だからこそ末恐ろしい、と思った。何より彼がこの状況を楽しんでいる…命賭けで戦うこと、強い者と剣を交えることを純粋に彼は楽しんでいるように見えた。
勝敗とは別に剣帝を倒しこの男の行き着く先には一体何があるのか。
見物だ。とまるで大スペクタクルをみるように彼の転末を見てみたい気分になる。何者をも恐れないこの男が一体どう生きるのか。
戦況は刻一刻と変わり彼は素早く踏み込んだが、逆に剣帝の剣の切り返しをかわしきれずに傷を負っていた。軽い舌打ちをしたが、裂かれたライダースジャケットには目もくれず切り返す。黒い皮のジャケットに赤々と滲む血。
踏み込みが更に速く鋭くなる。切っ先が更に烈しく剣帝に襲い掛るがそれをも剣帝は軽やかにかわしていた。流石に剣帝と称えられるだけのことはある。
日は傾きかけ踏み込む彼の背に夕闇が迫る。闇は視界を遮り戦いは双方に不利となる。
一攻一退を繰り返す彼等の戦いの行方は直ぐには付きそうになかった。
「互角…。」
まさかとはもう思えない状況だ。観衆にも今までと違う動揺が走る。剣士の勝敗の行方にではなく予想外の展開にざわついた。よもや剣帝とうたわれたイタリア一のマフィアの剣士がいくら有望視されているとはいえ子供に快勝しないとは…。見世物として最早成立しない決闘にがやつく。
「下らねぇ」
ギャラリーの反応を一笑に付した。誰もが奴を見くびっていたのだ観衆も俺も剣帝でさえも…ただそれだけの事。ヴァリアーにとって有能であれは誰でもいいのだ。剣帝であろうが剣士であろうが。
「奴は何になる?」
烈しい攻防を繰り広げる彼等二人を眼下に眺めながらXANXUSは独り呟いた。
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