復活

□悲しかない。
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気だるい空気を纏って寝返りを打つその白い背中を流れる銀糸の髪の毛が綺麗だなと見蕩れた。
山本武は出会った時からこの美しい人に惚れていた。
何度となく肌を触れ合わせ濃密な時間を共有したとしてもその感情は一方的な感情でしかなかないことを山本自身よく知っていた。
彼の中に自分はどんなポジションを占めているのか、どこまで彼を独占できているのか…そんな疑問が言わせたのかもしれない。
「デートがしたい。」
「あ?」
山本の不意の誘いに彼は怪訝な顔をした。
「そ、デート。俺の部屋じゃなくてどっかに…そうだなぁ食事なんかして海なんかみて、それでホテルに行くなんてのはどう?」
その場で素早く立てたデートプランに彼は柳眉を派手に歪めた。
「そんな暇はない。」
「すっぽかしてもいい。だから今約束をしようぜスクアーロ。」
怪訝な顔を爽やかな笑顔でかわして小指を目の前に差し出した。今度は行為の意味が解らず眉を顰める。
「スクアーロもこうやって…小指を絡める。」
有無を言わさず彼の細い手首を掴んでその長く白い小指と自分の豆だらけの太い小指を絡めた。
きゅっと力を込めて絡めるその指の長さとしなやかさに心が弾む。
「これで約束できた。」
心の騒つきなど未塵も窺わせずにニコリと笑顔を浮かべて山本は言った。
「必ず迎えに行くから。」
真剣な表情で言えば軽く口許を歪ませて笑った。
「お前は変な奴だ。」
「アンタの為なら俺はきっとなんだってするだろうよ。」
そう真剣に言えば乾いた笑い声を上げる。
真剣になど考えていないのだろう。ジョークのように聞き流された。
こういう時悔しいと思う。きっとあの男が言ったのなら彼は違った反応をしたに違いない。
いつもアイツだったら…と想定してしまうことが癖になっていた。
唯一この美しい彼が心を向けている男。
けれど相手は彼の想いなど気に止めたことなどない。気の向くままに彼を扱い殴り棄てる。
それを良しとしている彼に疑問を持たない訳ではない。「それでいいのか?満足なのか?」と問いたくなる。実際に訊いたところで多分予想と違わない答えが帰ってくることも分かっていた。
だから尋ねた事はない。態々確認することでもない。
その代わり、いや、だからこそあの男が出来ないことをしようと思う。
肌を合わすこと他愛もない会話…言い出したデートも、それすらスクアーロの為と言うより自分の願望ではあるが…。
「嫌いなものなんかあったっけ?」
「ない。」
そっけないが返ってきた返事に顔が綻ぶ。
「じゃあ楽しみに待っていてくれよな。」
滑らかな肌に唇を滑らす。そのままにしてくれているということは承諾してくれた証だ。ますます調子に乗りたい気分に彼が解らないと言いたげに呟いた。
「お前の方が忙しいだろう。」
なのに何故?が続く筈だ。そんな当たり前の事を解って貰えてない、こんな関係になっても対象として考えていないのがよく解る。続きを言わせたくなくてその薄い唇を塞いだ。小さな呻きと頭を振り抵抗を見せたが有無を言わせず無遠慮に掻き回して舌を絡めた。
何度言っても解ってもらえないなら態度で示すのみだ。
執拗なキスと熱を持った体を密着させる。
「一秒だって一緒にいたい。」
熱を持った体と声で言葉をいくら重ねても彼はすこし笑うだけだ。
その顔さえ煽るだけだというのに…出会った時から負けている。
「スクアーロが好きだ。」
言葉に答えがないとしても言わずにはいられない。きっと何度でも言うだろう。
「ずっと好きだ。」
いつになったら伝わるのだろう。それは途方もなく遠いような気がする。でも留める事が出来ない。きっとずっと伝え続ける。
報われようが省みられなかろうがいつまでも鮮明に想い続ける。
最初から勝つ気のしない勝負にけれど何度でも挑む。いつかは…という甘い予感を何時までも抱いて。

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