復活

□elegia
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アイツが思うがまま満足に生きてくれればそれでいい。
そう言った彼の横顔は清々しい表情で、その言葉を聞く俺の心は地を這うような心境だった。
多分手元にアルコールがなかったら聞いていられなかっただろう。琥珀色の酒を煽ることでやり過ごす。
彼も手元の酒に口をつける。酔いの回った彼は頬が仄かに朱に染まっていた。
…それを側で見て居られればそれで満足だ。
他は何も望んじゃいねぇ。
その心が欲しいなどと一言も彼は言わなかった。
彼の人の為に剣を振るうことが出来れば良いと静かに言った。
本心なのだろう。
そう思わせるだけの言葉だった。
何時もの尊大な態度は成を潜め、ただ静かに自分の心情を吐露する彼の姿はそれだけでどれだけ真摯な想いがそう言わせているのか良く分かる。
その想いが一途にぶれることなくあの男に向けられていることを嫌なほど見せつけられている気分だった。
どうしてそんなにあの男に入れ込む?
だからこそ、だろうか自然と口にしてしまった。ずっと疑問だったのだ。
アカデミーを出てあの男の下に行った。
それまでに接点があったとは思えない。いやなかった、なかった筈だ。
この男がどうしてあの男にこだわるのか。あの男の何がこの男の心を捉えているのか…。
彼の動向をずっと見続けていたのにその接点すら見付ける事の出来ない彼が一体何に惹き付けられたのか。問いに対し彼は過去を思い出すように瞳を細めた。そして小さく呟いた。
俺には無いものを持っていた。と…
彼の網膜の裏側に焼き付けたものを俺にはわからない。ただそう小さく言った彼のその姿が酷く美しく儚げだった。
解るか?跳ね馬。本能的に敵わないと思うと言うことが。
解ろう筈もない。俺は小さく首を横に振った。
彼は鈍く光る瞳を細め自分の深層を打ち明ける、その行為は厳かに見えた。
絶望ではない。…歓喜でもない。不思議な感覚だった。敵わないと思った瞬間付いていこうと決めた。ザンザスが何者だったかなんて事はその時は解らなかったし知る必要もなかった。
俺には必要だと感じたんだ。
奴を語る彼の姿はどうしてこうも確固としているのだろう。彼は続けて言った。
解るか?跳ね馬その時俺は初めて自分の存在を確信したんだ。俺にはアイツが必要でアイツには俺が不可欠だと。
それは絶対だと俺の中で確信した。それ以上の理由が必要だと思うか?
お前にとってのファミリーと同じ、お前は自分のファミリー無しには存在し得ないだろ?
饒舌に語る彼の言葉。ひとつも聞きたかった言葉ではなかった。俺は更に酒を煽った。

俺にとってのファミリーが彼にとってのあの男なのか…。命にも換えられるものだというのか、あの男が。
どうしてアイツなんだ、どうして?
疑問をいくら彼に尋ねてみても満足な答えなど聞くことは出来ないだろう。
どんな理由であれ答えが「あの男」で有る限り。
俺はただ、こう言うだけだ。
それでも俺はお前を見続けるんだろうな。
と…きっと視線は一度も交差することはない。それでも見続けることをやめられはしない。
彼の網膜に焼き付いて離れないのが彼であるように、俺の網膜に焼き付いているのは彼だからだ。



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