復活

□calma
1ページ/2ページ

笑った顔のその表情があまりに穏やかだったのが印象的だった。
激しい感情と荒々しいその気質からはとても想像できない表情だった。
強い意志がそうさせるのか堅い誓いを己に立てたからだろうか判らないが「これで良い」と笑った時の顔のどこかもの悲しげでしかし穏やかな顔に俺は心底驚いた。
彼を構成しているパーツひとつひとつはその表情をいやという程引き立てていたけれど。
それは俺を想ってする表情ではないし、またこれで良いと評した男の前でも決して見せたことはないだろうと思う表情だった。
彼の中で何かが理解され、納得したのは解る。
荒れ狂う豪雨の後の晴れた空のように爽やかで清々しい表情は彼が今まで見せていた荒々しさも何もかもを内に仕舞い込んでしまっていた。
意外な反応に俺はただただ驚くばかりだった。
俺は何故か彼が激昂すると思っていた。
彼の想う男がこんなことでは負けないと、諦めないと、強く主張すると思い込んでいた。
しかし彼は俺の予想に反して今まで見たこともないような穏やかな表情で俺の前に居る。
驚きと動揺で何も言うことが出来なかった。
こんな顔をすることをあの男は知っているんだろうか…。そんなことを漠然と思った。
それは、小さな嫉妬と多分見たことは無いだろうという予測の元の優越感だ。
こんな顔をあの男の前ではしていない。
その直感は全くの勘で根拠らしい根拠など皆無だ。
ただこの表情が見れた、この言葉を聞いた、その分だけ俺はあの男より彼に関して知っていることが1つ増えた。
彼に関し何一つあの男に勝っていない自分の唯一だ。
そして決してあの男には見せて欲しくないと思う。きっと彼は見せないだろう。それは彼のプライドが許さないだろうから。
つまりは今見ている俺しか見れない、と言える。
ムクムクと胸の奥から湧き出る喜びともなんとも呼びようのない苦しいような歓喜のような色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざったものが膨らんでせり上がり苦しくて堪らない。
苦しいくせにそれは嫌ではないのだ。困ったことに。
ただ無性に目の前の一見無防備に見える笑顔を溢す年上の彼を抱き締めたくなってしまう。けれど、そんなことをしたらきっと彼は怒るだろうからグッと我慢する。何よりこの雰囲気を壊したくないから抱き締めたい思いと葛藤する。
本当は俺のことを思ってこんな顔になってくれたら嬉しいけれど、彼の頭の中は彼の主の事で一杯なのはわかっているから、多くは望まない。
ただ願わくば10代目を諦めたことで彼の中に少しだけ余裕ができて彼の頭の片隅に自分が少しでも入ることが出来ればいいと思う。
それは、俺のこれからの努力次第だ。
諦めるにはまだ早い。
彼の過去にはもう関われないけれど、これからならいくらでも関わって行くことができる。
諦めるには勿体無い。
この顔を俺を想ってするくらいになれるように、あの男とは違い、俺の前で俺のことを想いながらしてくれるように、俺はなりたい。
彼の心が凪ぐような男になろうと思った。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ