復活

□鮫誕
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「Buon compleanno!」
アホみたいな大声で起こされた。
「…あ゙ぁ?」
まだ覚醒しきれない視界の中にキラキラ太陽みたいな金髪がある。
今、何時だ?
なんでコイツがいるんだ?
判然としないし、考えもまとまらない。
ゆるゆるとベッドから上肢を起こすと傍らに立つ男に目を向けた。
「…何だぁ?」
「誕生日おめでとうスクアーロ!」
変わらないテンションの高さが起き抜けにはつらい。
「ハネウマぁテメェ今何時だと思っていやがる。」
というかなんでここに居る…。
重いカーテンが窓を覆っているが空はまだ暗い筈だ。
「ああ、悪いな。この時間しか空けられなくて…」
深夜3時は回っていない筈だが深夜にはかわりない。
「どうしても今日スクアーロに言いたくて。」
大輪の百合の花束を傍らに持つ男は時間を無視して爽やかな笑顔を浮かべている。
「訳分からねーぞ。」
そっと花束を渡された。カサブランカの強い香りが薫った。
寝起きに百合の花束を貰ってもあまり嬉しいものではない。
「だいたいどうしてここにお前がいるんだ。」
「だからお祝いを言いに。」
悪びれない陽もまだ明けないのに朝日のように爽やかな笑顔で答えられる。
答えになっていないが、もう尋ね返すだけの気力もなかった。
「…わかった。だからもう帰れ。」
疲れた。
ただ疲れた。
寝起きになんでこんなに疲労感を感じなくてはいけないのか…。
「花束、百合にして良かったぜ。」
ニッコリ笑うと頬に優しくキスされる。
「起こして悪かったな、ゆっくり休んでくれ。おやすみスクアーロ。」
言うことを言ったら、満面の笑みのディーノは部屋から出ていく。
言いたいことだけ言って帰ってしまった。
「何なんだ…。」
考えてもしょうがない。
何かを考えるよりも眠りにつきたかった。
花束を抱えたままベッドに潜り込んだ。

翌朝、蒸せ返るようなカサブランカの匂いで目覚めた。勿論、目覚めが良いわけがなかった。
「ゔぅ…」
疲れた。
「何だったんだ…。」
疲れが全く取れていない。
重い体を引きずってシャワーを浴びるために浴室に向かう。
熱いお湯を浴びれば少しはましになるかもしれない。
コックを思いっきり捻ってお湯を浴びた。
思った通りカサブランカの匂いが薄れ少しは気分が良くなった。
何分か、浴びていたと思う。
寝室に戻ると人の気配がした。
「?」
だれだろうか…濡れた髪をそのままにその姿を確認しようとしたら先に尋ねられた。声で誰かは直ぐに判った。
「花なんかどうした?」
ベッドに無造作に置かれた百合の花束を焼きつくように睨み付けている。
確認しなくても機嫌はすこぶる悪いのは判る。
「…ぁあ…ぇと…ハネウマが、置いてった。」
それ以上の説明はできなかった。
「キャッバローネのボスがいつ?」
ジロリと赤い瞳に睨まれる。
「寝てたから解らない。」
咄嗟に嘘をついた。
「カス、嘘をつくならもっとうまい嘘をつきやがれ。」
寝ていたら相手が誰か解らない筈だという矛盾にすぐ気付いたが、押し黙ってシラを切った。
「まぁ、いい。」
珍しく、本当に珍しく、不問にした。驚いてボスの顔を凝視してしまった。
「何を見ている。」
「いや。」
これ以上不用意な言葉を言って機嫌を損ねる訳にはいかなかった。
「朝早くに…任務かぁ?」
話題を変えた。その方が良いと判断したからだ。
しかし、ボスは俺をじっと睨むばかりで答えようとはしなかった。
何かをした覚えはない。
苦虫を潰したような渋い顔で「とりあえず服を着ろ」と促される。
今までそんな事気にもされたことがなかったから、驚くばかりだ。
すぐ手近にあった服を着ると、ボスの手が延びてきた。
咄嗟に殴られるのかと身構えたが想像していたような衝撃も痛みもやっては来なかった。
「?」
ぎゅうっとつむっていた瞳をそろりとあけた。
ボスが変な顔をしていた。
物凄い眉間に皺を刻んでいるくせにその瞳は怒り狂っているわけではない。単に不機嫌という訳ではないようだが、苛立ちは隠せないでいる。ひどく葛藤しているような、何だろうか。こんな顔のボスを今まで一度も見たことはない。
「どうしたんだ?」
あまりの違いに俺の方が戸惑ってしまいつい口に出てしまった。
「カス…」
名前を呼ばれた訳ではないが、とりあえず呼ばれた。
しかしその声もいつもの高慢で高圧的な感じではなかった。
「?」
妙な感じだ。
ボスが何かを迷っている。
「どうしたんだ、ボス?」
ギッとまるで敵を見るかのように睨み付けられる。その鬼気迫るプレッシャーに少し気圧される。
「テメェは俺のモンだ。生死も全て俺が決める。」
ああ、と頷く。それは昔誓ったことだ。
「髪の毛一本たりとも俺の許可無く他の奴等に触れさせるんじゃねぇ」
ああ、とまた頷いた。
全てザンザスに捧げた。
無くした左手も全て。
何の確認なんだろうか…。意図が見えなくて、ただひたすら頷いた。
「俺のものに対して俺が何をしても文句は言わせねぇ。」
文句など言うつもりは毛頭ない。
寧ろ一言一言が俺に言うというより、自分に言い聞かせて居るようだった。
「お前の生まれた日を祝ってやる。有り難く受けとれカス。」
いつもよりやや早口だったが、いつものボスの口調だった。
言った内容よりも、いつものボスに戻っていることの方が気になった。
ポンと投げられた小箱を受けとる。開けるよう無言のプレッシャーを掛けられ急いであけた。中に入っていたのは小さなリングだった。
「これ…?」
何だぁ?
まじまじと見るが嵌め込まれているのはどう見ても普通のアンティークのリングだった。
「マフィアに伝わるリングだ。…ボスにだけ継承される。」
「え?」
「そのマフィアはすでにないが、そのリングには力が込められている。」
ボゥと淡い色の炎が上がった。
「!!」
熱くは無かった。それなのに、燃え上がる炎。ボスの炎に似ていた。似ていると思うだけで目が離せない。
「施しだ。」
手短にそれだけいうとボスは部屋を出ていこうとドアの方へ向かう。
慌てて俺はボスに言った。
「ありがとうボス。」
ボスは少し振り向き口角を少し上げただけだった。そのままドアの向こうに消えていった。


終わります

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