鳴戸
□優しい情景と無知
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俺は何となくあの人の笑顔が腹立だしくて
あの人を殴った。
それは本当は俺の役割ではなくて
してはいけない事だったけど、俺は彼を殴った。
ちっとも面白くも何とも無い倒れ方をあの人はして
それがとても無様だったので
彼がいとしくてたまらなくなった。
だから俺はすぐ彼に優しくしてしまった。
彼は彼でそんな俺を凝視してみてとても不可思議そうに見て
その姿があんまりにも無知に見えて俺は更に愛しく感じてしまった。
きっと彼は何で俺が殴ったのかも解らずに混乱しているに違いない。
でも優しく差し伸べられた手を払うような知恵は無くて
彼はこの光景を必死で理解しようとしている。
この情景に解釈はない。
けれど、意味はある。
でもきっとこの木偶はそれを理解できない。 それでいい。
それは木偶が理解しなくてもいいものだから。(むしろ意味など知らなくて良い)
優しい情景になれたこの人は容易く俺の手を取った。