鳴戸

□月世界
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「どうして」
と尋ねたり、考えたりする間も無く
僕は行動を起こす。
それは「どうして」か、と言えば
それが僕らにとって至極当然で当たり前の事だから。

僕らはその為にここに居る
「だから僕は行動を起こす」

でももし「どうして」と考える事が出来たら
僕は何と答えるだろう
一般論なら沢山あるけど
僕には答えがない

だから誰かに尋ねてみることにした
「どうして人を殺さなくちゃいけないんでしょうか?」
最初に奇異なエリートに尋ねた
「どうして・・ねぇ・・」
彼はそんな事を尋ねる僕を笑った。
「お仕事だからかなぁ・・」
「仕事以外でも殺すでしょう?」
「ああ、アレはアレでお仕事。だって快楽殺人者じゃないし、私怨があるわけでもないじゃん。又は自己防衛?まぁ・・・死んじゃう人間なんかに興味はないね。」
彼は本当に関心などない様に切り捨てる。
彼は彼の興味のあるものにしか関心を示さない。
そして彼の関心は非常に狭い
彼の関心はターゲットより“長”なのだ。
ただ長にのみ関心を持つ。

やはり奇異、特異なのでこれは参考にならない

次に大きな熊みたいな人に尋ねた。
彼はシニカルに笑い(それが彼の特徴でもある)
「死にたくねェだろ?」
と言ってやはり笑った。
彼は彼なりの考えがあるのだろうとは思うがそれを全て教えてくれるような人ではない。
ただ簡潔に彼の考えの一端を明かすのみだ。
僕は彼と余り親しくないのでその小さなヒントから彼が何を思っているのかを知ることは出来ない。

僕には彼の真意を知ることは出来ないから、やはり参考にならない。

その次に人の良さそうな中忍のアカデミー教師に尋ねてみた。
彼は少し困った様な顔をして言った
「難しい問題ですね・・そうですね・・何ででしょう?やっぱり人の命は大切ですからね・・だから〜うーん・・やっぱり難しいです。」
彼はしきりに答えられない事を謝り、彼独特の癖のない笑みを浮かべた。

彼のレヴェルではとても解答できるような問題ではなかったらしい。やはり参考にはならない。

それで多分一番親しいであろう人に聞いてみた。
「どうして?どうしてってそりゃ・・お前、そいつが敵だからさ。」
彼はさも当然そうに言った。それから小さく溜息を付いて続けた、
「お前また面倒くせぇ事考えてたんだろ?いいか、俺達には拒否権なんてないんだよ。この仕事をしている限りそれは義務だ。しなくちゃならない事なんだよ。わかったか?」
彼は言い切る。
「任務でもなんでもいい自分の前に立ちはだかる障害物なら倒して前に進むしかないだろ。」
彼は明快に答える。
何故こんなにものをはっきりと答える事が出来るのか僕には不思議でならないけれど。
でも考えてみて確かにそうかもしれないと思った。
そう考えれば良いのかもしれない。
障害物なら・・そう、倒すしかない。
倒すしかないから手段として僕は人を殺める。
殺めて僕は先に進む。
それでいいのか。
僕が進む為に僕が生きる為に僕は人を殺める。
そこにはきっと善とか悪とか無くてただあるのはエゴとエゴのぶつかり合いでしかないんだろう。
何かがカチリと合った気がした。
噛み合ったみたいになって、それは一瞬の感覚なのだけれどそれが僕をとても納得させた。
とても自然な感じがして、それ以上「どうして」と考える気は起こらなかった。勿論人に尋ねる気も・・。

忍びと言う職を続ける限り僕は地を血に染めて進だろう。
それが悪い事か善い事か僕には判らないけれど、僕にはそうやって進むしか術はないから、何があっても僕はそうやって先へ進む。
何時か同じ様に進む人の前に僕は倒れる事になるかも知れないけれど、その時はその時だから仕方がない。僕が倒れる立場になる事だってあるだろう。

こんな生き方でももしかしたら長く生きるかもしれないけどそれはとても低い確率なので考えなくていいと思った。

其方でもいいけど最期に言う言葉くらい決めておこうかと思った。
死ぬってどんな事か解らないけど
きっと眠るみたいな感じなんだろうと勝手に思った。
だから眠るときの言葉を
最期のあいさつを
僕は「その時」に言う事に決めた。
ただ願うばかりは「その時」にその言葉が言えるようなゆとりが僕にありますように。



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