鳴戸

□まひるの月
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最後は何時だ。

時間が人に平等にあると誰が言ったか、時間すら私には平等に無い。
確実に削られていく命と引き換えに私は自由を。

間近にあって見えない最後を思いながら私は貴方と共にいます。

*****

キラキラ朝日が眩しかった。
緑が朝日に透けて綺麗だった。
空が透けるほど青くてそんな空に緑が美しく映えた。
それだけで晴れやかな朝に気分が良くなった。
通りの向こうから来る人、私はその人をよく知っていてとても親しい間柄だったので遠くからでも見分ける事が出来た。
「ゲンマさん。」
呼ぶと遠くでも気付いてくれてこちらに手を振ってくれた。
近付いてますます彼が見えてくると長身の体が大きく見えて少し見上げる。
朝日の様に眩しく緑葉のように透け日に映える栗毛が綺麗で見蕩れてしまう。
そのまま目を細めて笑顔を沿えて言葉を交わす。
「おはようございます。」
「おはよう。今日は早いな、早番か?」
端整な顔が台無しになってしまうほど大きな欠伸をして彼は私の挨拶を返す。
「いいえ。少し早く起きたので来てみました。」
彼の顔がおかしくて笑ってしまった。彼はまったく分かっていないようで怪訝な顔をしはしたが気に留めた様子も無く話しを進める。
「珍しいな。お前朝ダメだろ?」
朝、起きれる訳でなく単に眠りが浅いだけだがそれでも心配させたくないので私は少し嘘を付いた。
「最近は調子良いんです。」
「ふーん。あんまり無理するなよ。俺達は体が資本だからな。」
私は気遣う彼の言葉に素直に頷いた。
「もちろんです。」
私達の生業はとても特殊。
常に死を背に背負って働く、この里の為。
イヤな事じゃない、それは私が望んだ事。
彼が気遣ったことを素直に感謝した。
「それとな、早番じゃないならそんなに早く行かなくても良いんだぜ?」
適当に手ェ抜けとヒラヒラと手を振る。
一見軽薄そうに見える彼はとてもやさしい人だと私は知っている。
こんな荒んだ生業を持っていても明るく笑っていられる彼は私にはない物を沢山持っている。
それは朝日にも似ていて、人のこころをさわやかにする。
「今日は天気が良かったものですから。」
「天気?・・晴れてんな。」
無頓着に空を見上げる。
「陽に緑が映えてきれいでしょ?」
私が笑うと彼は周りを見渡して素っ気無く言う。
「そうか?」
「とても綺麗ですよ。」
色素の薄い彼の髪の毛が日光に晒されて綺麗。太陽の逆光にキラキラと映える彼を見て目を細めると分からないと言いたげに彼は首を傾げる。
その内彼は地面を見るように附し、やれやれというように首を振る。
「朝日ね。」
一言呟いて彼は私を見る。
「・・どうかしましたか?」
「いや・・。」
彼はまじまじと私の顔を見ては口端を歪めて笑った。
「敵わねーな、ハヤテには。」
「?」
彼の言葉の真意を私には掴めない。彼は気にした風でもなく、言葉を続ける。
「詰め所まで一緒に行くか?」
「・・いいんですか?」
彼は帰りではなかったのか?そんな言葉を口に出す前に彼は私に笑って言った。
「俺もこれから行くところだったから丁度いいさ。」
その言葉はきっと彼の優しさだろう。
じゃあと私は彼の隣りを歩む。
並んで他愛もない話しをする。
最近の話、今日の事、同僚の話題
緩やかに頬を擽る風が心地良かった。
ゆっくりと過ぎる時を感じて穏やかな気分で居られる。
殺伐とした中で唯一穏やかにいられる。

私には余り時間が無いらしい
病んだこの身を恨む事もあるが私には恨む時間よりも生きることに時間を費やしたい。
それだけ私には余裕はないらしい。
ただ笑って生きていけたら幸せだと思う。
こんな生業を選んでおいて今更何を、と嘲われてもいいから。
人並みとは言わない、そんな贅沢は言わない。
だからせめて・・・貴方の前では笑っていたい。
それは過ぎた願いだろうか?
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