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□無題 E
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奴は決まってコーヒーのブラックか熱い番茶を好んで飲んだ。
俺は定番と呼べるような飲み物はなかったからその時々で色んな飲み物を飲んだ。
今日は奴の真向かいに座ってメロンソーダを飲んでいた。奴はブラックコーヒーだった。
向かいの奴は経済誌なんか広げて読み始めてしまうから会話もない。折角久しぶりに会ったのに…、てもちぶさたでみどりの液体に入った氷をストローでかきまぜるカランカランと涼しげな音を立ててみるみる氷は溶けていく。
そんな様子をぼんやりと眺めた。
「たまにさぁ…」
「あぁん?」
唐突に話出す俺に奴は怪訝な声で返事をした。
「ストローってどうやって口から離すのか忘れる」
「はぁ?」
言った言葉に馬鹿みたいに大仰な声で返事をされた。
「お前馬鹿だろう?」
呆れた顔をして経済誌からこちらに顔を向ける。救いようのない人間を目の前にしたような哀れんだような瞳に困ったような呆れたような眉をハの字に大きく歪ませて。
「馬鹿じゃねーよ。だってさ吸っててさ口離したら溢れそうじゃん。」
難しいんだよ!!と言うと本当に呆れた顔で言われてしまった。
「吸うの止めてから口離しゃいいだろうが。やっぱり馬鹿だな。」
当たり前だ常識だと言われて馬鹿にされたが俺は口をへにして言う。
「ストローを離す最後まで俺は飲みたい。」
チュルチュルとメロンソーダを吸い上げる。
そしてチュルと最後まで飲み干し意味ありげに笑う。
「はあ…?」
わからねぇと眉を顰める。
「最後まで美味しく。でもさ、その方法をすぐ忘れる。」
「…?」
言ったことの意味がわからないといった風で。
「経済誌もいいけどたまには話そうよ。」
折角二人で居るんだから。そう言ってニコリと笑う。奴は目を見開いてそのあと直ぐに苦笑する。そして開いていた雑誌を閉じて頷く。
「ああ、そうだな。」
返事に満足して俺はにっこり笑い返した。

未満
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