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□無題 G
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イクラは自分の赤茶けた髪の毛が嫌いだった。母譲りのこの髪の毛のせいで根も葉もない噂をされたり陰口を言われたりしたからだ。学校側も当然その辺あたりは気にして振り回されたりもし、事実無根の噂に信憑性を与えたりしてしまったから更に性質が悪い。
イクラは嫌気が差しつつも学校へはちゃんと行き成績だって悪い点は取ったことは無かった。友達だっていないわけではない。容姿が整っているので陰口と同時に女子には人気があったようだ。お陰でやっかみ半分の噂を流されたりしたのだが…。
何時か解って貰えると思っていたということもある。ただそう思っていても嫌になることもあった。そんな時イクラは決まってタラオに会いに行った。
突然連絡もなしに会いに行ってもタラオは嫌な顔ひとつせず迎え入れてくれる。見知った部屋で嫌な事は話さない。会ってタラオと他愛もない話をするだけだ。
今日もまたなんの連絡もせずイクラはタラオのところへ来た。
物騒な世間とは無縁のような磯野家は玄関に施錠と言うものをする習慣がない。ガラガラと引き戸を開けると大きな声で呼ばわった。
「こんにちは!」
声を聞き付けて軽い足音が響く。直線の廊下から駆けて来たのはタラオだった。
「イクラちゃんこんにちはどうぞあがって。」
どこか浮世離れしたタラオは突然の来訪にも嫌な顔一つせず出迎えてくれる。
「お邪魔します。」
出迎えてくれたタラオと共によく見知った家の中を歩く。行く部屋は決まってタラオの私室だった。昔は母親サザエの弟や妹が使っていた部屋を今はタラオが一人で使っている。
こざっぱりとした部屋は流行りのアイドルのポスターも人気のタレントのポスターも無かった。代わりに壁に張り付けてあったのは古い世界地図とカレンダーだけで、部屋にあるのめぼしいものと言えば本棚にパイプベッド、学習机くらいだ。
見慣れた部屋の中に通されると既に用意されていたお茶を目の前に出された。
まるで来るのを知っていたみたいだなとイクラは思いながら出されたお茶に口を付けた。
「今日は暑かったでしょ?」
「うん。」
「だから今日は冷たい麦茶にしてみたんだ。」
柔らかく笑って頷いてくれるその存在がイクラの少しささくれた感情を落ち着かせてくれた。
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