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□無題 H
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花太郎の休日の過ごし方と謂えば専ら瀞霊挺通信を読む事だ。色々な隊の事が書かれているし、たまには役に立ちそうな情報もあったりする。
花太郎は毎号の通信の中から役に立ちそうな記事や興味のある記事を切り抜きスクラップしている。細やかな趣味ではあるがひとり楽しく行っていた。決して広くない隊舎の自室の本棚には薬の本や鬼道の指南書と並びスクラップブックが何冊も並んでいる。
「結構溜まったなぁ。」
パチンと和鋏で記事を切りながら並んだスクラップブックを見た。
スクラップブック自体花太郎の手製で白い板目紙を表紙にし黒紐で綴じた簡素なものだ。表紙には丁寧におおよその掲載号が書かれていた。
大事にしてきたのもなのでそれなりに愛着もある。
最新号の切り抜きを終えた花太郎はまっさらな白紙に記事を置いて丁寧に糊付けしていった。
余った切れ端を集めて屑籠に入れようとした時、ふとあるものが目についた。
「荻堂さん、カレンダーになってる。」
切り抜いていた雑誌の何気無く開かれていたのは通販のページだった。花太郎は通販にあまり興味がないのでよく見落としてしまう。
他のカレンダーの面々が隊長や副隊長クラスのなかで荻堂は見劣りなく紙面に載っていた。
八席という立場を考えれば普通なら考えられないような紙面の扱いだろう。大衆紙の様相も呈している雑誌にはこういったリベラルな一面もある。
「買う人が沢山いるんだろうな。」
花太郎は呟きまじまじとその紙面を眺めた。
売れなければ、こんなふうに載せられてはいないだろう。
紙面を飾っている荻堂の視線は真正面を外しどこか遠くをみているようなポーズだった。あまり見ない表情だなと思いながら紙面の彼を眺めた。
「まるで現世のあいどるみたいだな。」
花太郎は独り漏らす。
度々赴く現世では沢山の物珍しいものがある。きらびやかな服を纏った男女が様々なポーズを取った写真のようなものが壁中に貼られけたたましい音を立てるお店に入った時(現世でいうところのCDショップというものらしい)そのけたたましい音と写真に花太郎は驚いてしまったのを今でも覚えている。
あれらを「あいどる」というと黒崎一護から聞いた。本当は一概にはアイドルとは言えないが、一護は面倒なのでそれら全てをアイドルだと教えたのだ。
こういった事で花太郎の現世の知識は若干間違ったものになっているが本人は気付いてはいない。また、瀞霊挺には間違いを訂正できる人間もいなかった。
「荻堂さんは本当に人気者だなぁ…」
多分このカレンダーを買い求める大半は女性だろう。男の自分から見ても格好良いと思うのだから、当然、と言えば当然だ。
だが、荻堂本人はなんだか違うのだ。
「僕の事好きだって言ってたけど本当かなぁ…。」
何をトチ狂ったのか花太郎が好きだと言ってきたのだ。あまつさえキスまで強制され、花太郎本人が一番困惑していた。
「…からかっているのかな?」
だったらいいなと一人呟く。決して弄ばれたなどとは思わない。勘違いやからかいであって欲しいと切に願っていた。
はぁと一つため息を吐いた。荻堂のことを考えると気分が暗くなる。
今花太郎の一番の悩みは荻堂のことだ。気分転換にと始めた趣味のスクラップも悩みの種が目の前にあったのでは意味がない。
パタンと雑誌を閉じるとなるべく視界に入らないように文机の隅に追いやった。
「なんでこんな目に…。」
そう呟くと深く深く花太郎は息を吐いた。
言葉巧みな荻堂に花太郎は毎日毎日おどらされ、また何かと理由をつけては一緒に居たがる荻堂に花太郎は本当に困り果てていた。
あまつさえ名を呼べとしつこく言いそれを強要する。
荻堂のことを春信などと公衆の面前で呼びたくはない。嫌いな訳ではない。
気恥ずかしいのだ。
周りの人間に何を言われるかもわからない。注目されることに全く馴れていない花太郎にとってそれは拷問にも近かった。
せめて、誰もいない所でならまだ平気かもしれない。例えば自室なら…などと考えて頭を振る。
そんな訳がない。
はぁとまた一つため息を付いて文机に突っ伏した。
訳が解らない。
心の中で思う。
荻堂の豹変に渦中の花太郎が一番混乱していた。
自分の何が荻堂の好意を得たのか皆目解らない。
追いやった雑誌に手を伸ばす。パラリと捲って見る紙面の彼。
眺めるが視線の合わない彼。
今の自分のようだと花太郎はぼんやり思った。写真の荻堂の視線の先に何があるのか花太郎には解らない。
もやもやと広がったのは嫌な気分だった。
雑誌を閉じまた文机に伏した。
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