復活

□いとしい
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柔らかく肩に頭を預けるように抱えると丁寧に主人の視界を塞いで部屋を移動する。
彼はいつも主人に直接惨事を見せないようにしてきた。
それがこの世界に引きずり込んだ自分にできる精一杯の「償い」だった。
主人が今の立場にいることに彼は自分には負い目があると思っている。
彼の夢は今叶えられていると言っていい。
望んだことが叶った分彼は幸せだろう。
――では主人は?
彼が見ている限り彼は自分の望みというものを語ったことはなかった。
(状況や問題に関する要望ならたくさん聞いたことがあるが)
ただ彼は柔らかく微笑んでたたずんでいた。
微笑みながらボンゴレというファミリーの首領になった。
(けれど主人がそれを望んでいると言われたことはなかった)
では一体何が主人をそうさせたのか?
自分には何か落ち度が無かったか?
自問自答しそして出た答えを呵責に変える。
彼はどうしても彼の傍にいたかった。
それ以前に彼はマフィアだった。
自分の我儘をもしかしたら無意識に押しつけてしまったのではないのだろうか主人はとても優しい人だったから身勝手な望みを叶えてくれたのではないだろうか?
――自惚れた考えだと思う。
けれどそれは主人の人生を大きく変えてしまうことだ望まずに薄暗い血生ぐさい修羅場を選ばせてしまった自分に何ができるのか当然彼はそう考えた。
そして結論はこうだ。
この世界に自分が主人を引き入れてしまったのなら、自分が守るのだと、生死が身近にあることはもうどうしようもない事だとしてもできるだけ遠ざけて主人の目には触れさせないようにした。
それが彼ができる精一杯の事だと思っている。


 先程の場所から部屋を移して身近にあった椅子に主人を優しくおろした。
先程の部屋のとなり小さなサロンのような作りの部屋だ。
「ご気分は悪くありませんか?」
優しい声音で主人の母国語で問い掛ける。
「大丈夫ありがとう獄寺くん」
見つめて見つめ返される主人の瞳はいつもの輝きを取り戻していた。
その輝きに彼はほっと胸を撫で下ろす。
まだ壁を一つ隔てただけの空間ではあるが殺伐としたあの空間から主人を離すことができ彼は一つ息を吐く。
それから「申し訳ありませんでした」と主人に詫びた。
「どうして謝るの?」
当然のごとく問い返してくる主人に彼は答えにつまり沈黙した。
黙ったまま俯いた彼に今までとは逆に主人が頬に指先を滑らす。
「獄寺君が無事で良かった」柔らかく微笑んだその顔に瞠目してしまう。
「俺を守ってくれて有難う」続けられた言葉に彼の顔はくしゃりと潰れて今までのような突き刺すような表情や主人を心配するような顔とはまったく違った表情をした。
「十代目」小さく今だに主人の名前すら呼べない彼はそれでも小さな肩口に顔を寄せすり付けるように
――甘えるように――主人の匂いを嗅いだ。
いとおしいと思った。
この人がいとおしくて大切で強くただ強く祈るような思いでどうかこの人がこのままで居てほしいと願った。


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