復活

□剣に生き剣に死す
2ページ/2ページ

戦いはその後丸一日を費やしても二人の勝敗は決まらず、二日目も終わろうかと思うころやっと雌雄を決した。

それまで剣帝は少年の決まった型を見付けられずにその攻撃を全て読むまでには到っていなかったが、攻撃パターンを読む事は可能だった。どんな剣技にも基本と呼ぶものはある。得てしてそれらは共通することが多い。

剣帝はスクアーロの首を狙った。全くの死角だったはずだ。仕込んだ左手は本来人の手首の関節としては有り得ない範囲で切り込む。
「獲った。」
剣帝は確信し重い感触を剣に感じながら振り抜く。振り抜いた力で切り裂いた物が宙高くに飛んだ。
噴き出す生暖かいねっとりとした血を浴びる。――それでこの戦いは終り――の筈だった。
「左手一つでやられんなら安いもんだ。」
言った彼は溢れ出す血をとめる事も痛みに動きが止まることもない。それどころか眉一つ痛みに歪めることすらしなかった。顔には笑みさえ浮かんでいた。
この男は…剣帝は驚きで目を見開いた。
そして次の瞬間剣帝は年端もゆかない少年の一撃に倒れた。
どこにそんな力を余らせていたのか解らない速さと剣威の衰えぬ鋒。互いの血で染め上がった刀芯は切り裂く事にはもう向かなかった。一突き、深ぶかと体幹に刺された剣は滴り落ちる赤き血でその全てを染めた。
見開いた瞳は少年を見続け映った姿をそのままに光を失っていった。
生暖かい体液を浴びるように受けた少年は勝ち誇った笑みを浮かべる。
力なく崩れ落ちていく肢体。ズルリと重力に従って抜けていく剣。トクトクと流れて広がる紅い血だまりは土に染み込み独特の臭いを放つ。
「剣帝とうたわれた男もこの程度か…」
丸二日戦い続け倒した屍を眼下に見下ろして言った言葉。眇められる瞳。
最早倒した相手になど興味はないと雄弁に語る表情。
狂気の瞳は冷たく褪めていく。ギラギラときつく輝いていた瞳は彼の瞳の色同様に静かな色を湛えていた。情事のような濃厚な時間を堪能した彼はその余韻を切り捨てるように剣を振り祓う。ベットリと付いた血液がしぶきとなって地面に叩き付けられた。

「決まったな。」
遠くない館で呟いた。
彼は今何になったのか…。剣帝を倒し何を得たのか…。
おびただしい血を浴び自らも左手を失った彼はそれでも悠然と笑みを浮かべた。
「アイツを俺のところへ…。」
興味はあった。
飢えた獣のようにいつまでも満たされない瞳は凶器にも見える。
狂気を宿した怜利な顔。
瞳に焼き付いて離れない。
あの色あの世界。
お前の世界は何色なんだ。あの男の屍を越えて何に成ったのか?

俺は見てみたくなったのだ。
奴の剣の先に何があるのかを…。


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ