鳴戸

□セルロイド
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今其処に有る汚いものを踏み躙れる力が欲しい。
薄いフィルターのような膜を破ってしまいたい。
セルロイドの人形のような奇麗な屍はいらない。
どうせなるなら、何かに塗れて汚い、そんなものになりたい。
英雄はいらない。
冷たい石に名を刻まれるのも厭だ。
ただ誰かに覚えていて欲しい。
意味を付さないものになんか成りたくない。

俺はあの人のように全てを愛する事なんて出来ないから、貴方の様には成らないでしょう。

別にそれはいい、俺は貴方のような生き方はしたくない。
貴方は人として尊い死に方をしたけど
人はきっと何時か貴方の事を忘れてしまうでしょう。
俺は名前だけの脱け殻になんか成りたくない。
それは化石みたいで時代の痕だから
俺は奇麗に保存される事を望まない。
むしろ人として汚して蔑んで…
何も無くなりたい、何も残したくない
そうして人が知らぬ間死んで行きたい

自分と言う肉片一つとして残さずに
しかし誰かの記憶の中には生きていたい。

奇麗な思い出なんかいらないから
誰でもいい
俺を記憶してくれ
俺の奇麗な部分でなく
醜い姿を
何時からか俺は彼を殺す事ばかり考えていた。
それはきっと普通の人からすれば尋常ならざる考えだと言う事は解っている。いるけれども俺は朝も昼も夜も何時もいかにあの人を殺せるか、それしか考えていなかった。
俺はあの人が恐ろしくて堪らない。俺はこの恐怖をこの先もずっと感じなければならないのだろうか・・・だとしたら、俺は・・。確定しない想像に苦悩し、この恐怖の克服方を必死で探した。
あの人は何故俺にこれほど恐怖を与えるのだろう・・彼は何者なんだろうか?・・・・それすら考えるのが恐ろしい。いや、考える事より考えついた結論の方がもっと恐ろしい。
俺はきっとそれを知ってしまったら、正気を保てない。
認識しては駄目だ。
本能が俺に警告する。
思考も行動も彼から逃避しなければ・・逃げなくては・・・
しかし、逃げる、本当に可能だろうか・・彼と俺の力の差は歴然としている。彼はエリートで俺は凡庸だ。
これだけ見ると彼から俺が逃げる事は不可能に近い。
だとすれば、一体どうすればいいのだろうか?
俺はまた必死に考えて出た答えは「彼を殺す」事だった。
不意をつけば、奇襲だ。奇襲をかければ・・
そうすればいくらあの人でも・・・
刀は駄目だ・・あれは小回りが利かない。
手裏剣も、千本も・・・・この計画には不向きだ。
そして俺はもうずっと使っているクナイを磨ぎ準備する。
シャッシャッと金属が磨れる音が室内に響く。
出来るならそう、小さな部屋がいい。
あの人が逃げる事が出来ないような殺伐とした・・できるだけ暗い部屋が・・
どうやって彼を誘き出そう?
・・そうだ、ナルトの、ナルトの事をまず尋ねよう・・そして誘うのだ。そうすればきっとあの人は来る。
何処の部屋がいいか?
あそこにしよう・・誰も使わない資料室。
意趣返しだ。
彼を抱いて、彼が俺に体を密着させた時、後ろから頚動脈を・・
きっと彼は気付かないで欲望のままその快楽を追っている筈だ。
エリートだってそういう時は油断している筈だ。
彼が、俺が格下で、まだ自分が優位であるという事に余裕を持っている時に、そうだやってしまおう。
恐怖から逃れる為に、あの人から逃れる為に。
人なんか今までだって殺してきたじゃないか、大丈夫。
大丈夫、俺はやれる。
落ち着いて、まずは笑顔だ。
何時ものように・・笑って世間話をするんだ。
何時も通りに行動すればいい。
不安に思う事は何一つ無い。

計画だ
この恐怖から逃れる為の
実行しよう
それしか俺には手段は無いのだから。

研ぎ澄まされたクナイを片手に俺は計画を実行に移すために家を出た。
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