鳴戸

□散リユク僕ラ
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・・・ザアザアと音を立てて降る。
その中で
ポトリ・・ポトリ・・
雫が落ちる
あの日から何百回も起こる気象現象。

雨の日は眠れなくて
眠れないから起きていて、だから目の下に消えない大きな隈が出来てしまった。
不眠症の気は確かにあったけど、だから僕は幾つのも薬を常用していた。
飲んでも飲んでも効かない薬は少し腹が立つけど人にそれを言ったら、それはお前がいけないんだと返された。
僕は僕でその人の言葉を無視した。
僕には薬が必要だったし、僕は自分の何がいけないのか解らないからだ。
眠れない事はそんなに苦ではないけど、人が要らぬ心配をしてくれてそれが何となく厭だった。

何時もはあまり用のないアカデミーに行った時。
アカデミー内を歩いていたら、見なれぬ上忍に遭い取り敢えず挨拶した。
その上忍は女性で、髪は長く黒く、真っ赤な口紅をした人で全身から生気が溢れるそんな女性だった。
彼女は僕の挨拶に気付かなかった様で、肩で風を切って歩いて行ってしまった。
後で聞いたらその女性は新米上忍で、つまり僕の後輩に当たる人だと知った。
それで何が言いたいかと言うと、要するに僕のように人から心配されるような人間もいれば、自らに自信を持った人間も居るという事なのだけれど。
なってみて初めて知ったのが上忍とういう人々のキャラクターの特有性。
つまり、平たく言うと個性が強いのだが、これが極めた者の姿なのだろか?
その中に自分が入って、それが全く違和感がなかったのは個人的に少しショックだった。
・・その時会った上忍が今向こうから歩いてくる人。僕はその人を「先輩」と呼ぶ。その人は事実先輩だったから。
「よう、こんな所で何しているんだ?新人。」
僕に気付いた様で手を上げて挨拶してくれる先輩。彼は僕の事を「新米」と呼ぶ。
「僕もう新人じゃないんですから、その呼び方止めてください先輩。」
僕は彼にそう呼ばれるのが嫌だった。
「でもなぁ・・俺の中じゃまだまだ新人だしな・・。」
渾名みたいなもんじゃん?と茶化す。
「・・・・僕より新米が沢山いるじゃないですか、僕ももう新人じゃあなくなってきたんですよ。」
いつまでもそんな事を言っていると老けますよ?と僕も彼に返した。
「手厳しいねぇ・・で?何しにこんな所に居るんだ?」
まいったと降参して先輩は話を変えた。僕は簡潔に答える。
「・・仕事です。」
「仕事熱心!イイコトだな。じゃ何か、火影様か?」
「火影様に用です。書類提出しなくちゃいけないんで・・。」
先輩の言葉を肯定して抱えていた封筒を見せる。
「アカデミーの校長、理事だっけ?あの方も多才だよな・・」
「そうですね。」
ゴホッと咳き込んで僕は答える。
三代目火影は火影としての仕事以外にアカデミーの校長もしている他、色々と役職を歴任している。本来は違う部署に提出の書類すら火影がアカデミーに居る為にわざわざここまで来なくてはいけない。
「・・お前さぁもうちっと健康体にならねェ?何かこっちが居たたまれないぞ。」
「ほっといて下さい。僕だって好きでなってる訳じゃないんですから。もう行きますね。提出今日までなんですよ。」
「飯はちゃんと食えよ!」
通り過ぎようとする僕に向かって先輩はそう声をかける。
アカデミーの廊下を進んでいくとこれまた人の良さそうな先生と通りすがる。
彼は何となく彼を見ていた僕に微笑み会釈する。
「あの・・」
と声を掛ければ快く
「なんでしょう?」
と応じる。
終始絶えない笑顔は彼の人柄の良さを示しているのだろう。
僕は彼の快い応対に
「校長室は何処でしょうか?」
と尋ねた。
「・・校長室ですか?校長室は・・」
彼は丁寧に説明してくれた。
「ありがとうございます。あまりアカデミーに来る事が無いので迷ってしまうんですよ。」
助かりましたとお礼を言うと彼は
「あぁそうなんですか、どうりで見た事の無い方だなと思っていたんです。先生は何処の部署で?」
と返した。彼は「先生」を当たり前のように僕の代名詞にしている所をみるにアカデミーの教師が長い事を窺わせる。
「「今」は試験官です。」
僕がそういうと彼はしまったという顔をした。しかし続けて、
「もうそんな時期になりましたかね・・任務頑張って下さいね。」
と言った。
彼は終始笑顔で接した。きっと彼はこの小さな世界でしか生きていないんだろうなんて漠然と考えた。
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