鳴戸

□散リユク僕ラ
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僕は彼と別れてから火影様のいる校長室に向かった。
コンコンと扉をノックし開ける。
「ハヤテです。火影様ご在室ですか?」
「おお、ハヤテか・・。」
扉の向こうには「火」と入った紅い笠を被った老人・・つまり三代目火影が書斎机で仕事をしていた。
部屋はどこか重苦しい(重厚と言うべきか)木目調の部屋だった。角隅に緑葉樹がインテリアとしてささやかに置かれていた。なんとなく、茶色の部屋の中の唯一の緑を何となく見て
僕は書斎机に近づき一礼してから持ってきた書類を火影様に渡した。
「これで言われた資料は全部です。」
「御苦労じゃった。」
受け取った文面に目を通しつつ火影様は言葉を続けた。
「・・そうじゃ、試験の日取りが決まったから、その旨書面にて各国に通達する。合わせて各国の要人にも同じく知らせるように文面を用意しておいてくれ。」
「わかりました。」
火影様からリストと書類を受け取り。
「それとこれは別の任務じゃ。」
そういって火影様は巻物を僕に渡した。
「はっ。」
僕は受け取り内容を確認する。
「・・・?火影様・・これは・・」
「念には念を・・という事かの。」
火影様は曖昧に言葉を濁した。
「いつもの事じゃが、多くの関係者が集まる試験じゃ。何が起こるとも限らん。頼んだぞハヤテ。」
「御意。」
僕は一礼して校長室を出た。
パタンと閉まる音がしてそれでやっと僕は咳をした。
「えーっ・・・やっぱり緊張しますね。」
独り言だと解っていても、どこか会話口調になってしまう。
また、事務かと書類を確認して元の部署に戻った。

*****

自分が何故、忍を職業として選んだのかその理由はもう忘れてしまったけど、この仕事を続けようと思った理由は覚えている。
僕は体があまり丈夫ではなかったから、本当はこんな職業は適性ではないだろうとは思うのだけれどそれでも続けた理由は至極簡単な事だった。
それは最近夜あまり眠れない理由と同じで、つまり不眠症と職業の継続は同じ原因であった。
個人的には大きな事で、でもここでは殆ど日常茶飯事な極当たり前のことだ。
それは今よりは以前でしかし過去と呼ぶには少し新しい事柄。
その時僕は本当に特別上忍になったばかりで、昇進してからの初任務をこなした時の話。
その時まで僕は本当に怖いものを知らずにいた。
僕はその時までまるで自分に降り掛かるものが災難であり不幸であり恐怖の対象だと思っていた。
でも、本当は違った。
僕に降り掛かるもので無く僕から消失してしまう事が本当に怖いのもだ、という事に。
ある時以来僕は眠れなくなった。
それは僕から眠りが消失してしまったからで、その原因は「死」だった。
僕は職業柄身近に在ったそれを(近くにあり過ぎた為に実感していなかった、或いは感覚が麻痺していたのかもしれない)それが、初めてリアルに映ったのが皮肉にも仲間の「死」だった。
正直何故僕は彼の死に対してこれ程衝撃を或いは印象を付けられたのかは僕自身理由が付かない。
けれどその時僕は彼の死に確かに衝撃を受けた。
彼と僕はそれなりに親しかった。(僕の交友関係は極めて狭い事を考えれば「とても」と言っても良いかもしれない)
彼が死んだその日は雨が降っていた。
葬儀の日も(と言っても彼個人の葬儀でなく集団葬儀であったけど)雨が降っていた。
火の国は四季が在るけれども、その季節に雨が降るのは珍しかった。
僕は彼に生かして貰ったのかもしれないと何となく思った。
生前彼は僕に良くしてくれた。
彼は忍びで在る事に誇りを持っていた。(僕はそんな事思った事は無かったけれども・・。)
そして実際良く働いた。(僕はそう・・漫然としていたかもしれない)
けれど彼は死んでしまった。(僕は生き残った)
彼はその他大勢と葬られた『英雄』として。(馬鹿げている。)
僕はあの時からずっと何で僕が生きているのかを考え始めた。
雨の日は特にそうで・・(それは多分彼を思い出すからだろう)一晩中寝れない日も珍しくなくなった。
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