鳴戸

□祈り
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自分にどれだけの汚点があるのか、それは自分しか解らないけどどうかあの人には気付かれませんように。

私に付けるだけの嘘を下さい。
あの人を騙せるだけの嘘を下さい。
笑いながら
途方に暮れる
少しずつ崩れることがないように
薄い膜のように何枚も重ねた嘘は
両肩に重く圧し掛かる。

彼が去って、暫くして医師が診察に来た。
いつもの時間に、いつもの医師が。
「あまり長く起きていてはイカンよ。」
白衣に身を包んだ初老の医師は聴診器を当ててそう言った。
長年世話になっているこの医師は、私の事も少なからず知っている。
「今日は気分が良かったんです・・・それに、来客もありましたし。」
老人はただ少し口角を上げるだけだった。
気分は悪くない、けれど微熱は続きじわじわと体力を奪って行く。これしきの事で脆弱な作りの体に腹立たしい思いが募る。
「・・・なるべくなら体力を消耗するような事は避けた方が体の為にはいい。」
「先生、私の病は・・・。」
そんなに悪いのですか?そう言いたかったけれど医師の言葉に遮られ最後まで言葉にする事はできなかった。
「我々も最善を尽くしておる。焦らずに地道に治療していくしかないだろう、月光。」
何度も聞いたその言葉の意味にもう絶望はしていない。
けれど楽観的な展望はまるでないのは解っていた。
「心音に異常はないな。」
聴診器を外し医師は黄色く変色したカルテに書き込む。角が擦りきれているカルテは嫌なことしか書いてない。定期検診と言う観察はそろそろ終りにならないだろうか。
「私はここにいても良くなりはしないのでしょう。」
カルテに短く書き込みをした医師は私の言葉に少し間を置いて言う。
「・・・諦めなさるな月光の。」
諦めたわけでないけど無意味な時間はもう過ごしたくなかった。
できればもう真っ白い部屋には居たくなかった。
「別に、そういうつもりじゃありません。対処療法としての入院ならもう済んでいるはずではないんですか?」
そう問いかけた医師は昨日と同じ言葉を繰り返した。
「今しばらく院内での治療が必要だと思うが?容態がもう少し落ち着いてからの方が良いだろう。」
微熱があるからと言われた。
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