鳴戸

□リプレイ
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なんでかな、死んだその日よりお前が生まれた日の方を気にするなんて。
おかしいよな。でもなんとなく想ってしまうんだよ。
心の中には常にあるけど、この日ばかりはどうしようもなくお前の顔がちらついてしまう。
町のあちらこちらに思い出があって、在りし日の姿をそこに見てしまう。
どんなに思い浮かべても実際にお前は居なくて、少しずつ変わっている町並みに過ぎた日々を感じて悲しくなる。
多分いなくなる時は一瞬で予告されたものではなかったから、生まれた日の方が共に過ごした時が多いからこんなにも思い出してしまうのだろうけど。
暖かかった記憶が胸の中に流れるからあの日々のように無性に会いたくなってしまう。
でもだからといってお前の今眠る場所には行きたくないんだ。
居ないことを直視したくないんだ。
何年経っても受け入れたくはないんだ。
いつものようにいつか肩を揺らして咳をして皮肉の一言も言いながら俺の目の前に現れるんじゃないかって黒目がちな瞳が俺を見て笑ってくれると信じている。
本当は居ないことも、また会えることもないと知っているし解っているけど、こんな日にはそんな思いばかりが募る。
そんなことを思うこと事態が馬鹿げているとは自分でも分かっている。
分かっているからやるせなく虚しくなる。
だけどいつかお前のところに行けたらいいのにな。
なんて思ってしまうことくらいは許されると思いたい。
こんな日だから特に思う。
本当だったらもっとあった筈の未来を思いながら、叶わなかった想いを抱きながらお前の生まれた日を一人過ごす。

それくらい許される筈だ。
それくらい願ってもいい筈だ。
お前はもういないのだから…。


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