ソラの奇跡たち
□第3話 不穏な空気
2ページ/8ページ
──うわあああああっ!!
「なっ……何!? 何事!?」
頭の中で直接響いた声と何かが爆発したような音に、チヒラは驚いて目を覚ました。そこは先の見えない闇が広がる不思議な空間であり、その先からまた、声が聞こえて来た。
──キラ……キラ・ヤマト!
──アスラン? ……アスラン・ザラ!?
──やはりキラ? キラなのかっ?
聞こえて来たのは、どちらも自分が知っている人物の声。どうやら向こうも互いを知っているらしい。しばしの沈黙が続いたあと、叫ぶような声が響いて来た。
──なぜ……なぜ君がっ! ヘリオポリス≠ノっ……中立のコロニーに、何でこんなひどいことをっ……!
それは怒っているのに、泣きそうな声だった。相手がどんな人物か知っているからこそ、『ここ』にいることに対して、怒りたいのか泣きたいのかわからない、どうしようもない思いを抱くのだろう。チヒラにもその気持ちは十分にわかった。
すると今度は別の、でも同じように叫ぶような声が響いた。
──お前こそ……! どうしてそんなものに乗っている!? コーディネイターの君が=c…なぜ地球軍のモビルスーツなどにっ……!
聞こえた声が言ったことにチヒラははっとし、同時に納得する。あの時見たキラのタイピングが速かったのは、キラがコーディネイターであるから。すべての面においてナチュラルを上回る能力を持っているからだったのだ。
しかしそこまで考えたところで、先程から少しずつ聞こえていた轟音が、もう無視できない程大きくなって来た。一体何の音なのかは、相変わらず闇が広がるだけでわからない。
轟音の中でも、声は響いて来る。
──ヘリオポリス≠ェ……! うああああっ──!
──キラ!
轟音から強い風が吹く音へと変わり、悲鳴と叫びを最後に、何も聞こえなくなった。辺りはまた、無音の闇へと戻る。
すると今度は、声と共に誰かの姿が浮かび上がる。まるで泣くように叫びながら、地面にしゃがんで誰かを呼んでいた。
『……チヒラ! チヒラ、目を覚まして! チヒラ!!』
叫んでいたのは20代後半の女性。ウェーブがかった長い褐色の髪を振り乱して自分の名を呼んでいる。その足元には頭から血を流してぴくりとも動かない女の子がおり、それは幼い頃のチヒラ本人だった。
.