STORY = B
□白黒(帰蝶と桃丸)
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「…とうまる、」
くしゃり、潰れたとびむしの死骸が足元に転がる。
「なんで、桃丸わたしは」
「なんでもなにも」
かさかさと乾いた音をたて、形を崩した蛾だったものが手のうちからにげていく。
「帰蝶が言ったんですよ、部屋に蛾がいるからどうにかしてくれって」
「いったけど、でも、」
てのひらに、指先に、こびりついた鱗粉をはらい落とす。
「わたしは逃がしてくれっていったの…!」
「帰蝶はやさしいんですね。」
幼い従妹は心底驚いているのだろう、目を丸くして今にも泣きそうな顔をしている。
「ああ、あなたの部屋を汚してしまいましたね…」
すみません、と言えば彼女は余計複雑な顔をする。
「お詫びに花でも摘んできてあげましょう。あなたも行きますか?」
きれいにぬぐった汚れていた手を伸ばす。
千切れた翅を見ていた小さい手が、色素の薄い冷えた手をとった。
「…桃丸、」
わたしあなたがときどきわからない、というくちびるがいとしくて、桃丸はそれはきれいに笑った。
終.