STORY = B
□二連星(興元と松寿丸)
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冷えた夜に息が濁る。
冬の薄い天の川と混ざり合うそれは、まるで溶けてなくなる氷のようで、なんとも美しかった。
見上げれば七つの連なり星がきらきらとまたたいている。
「(兄上は北斗が八つに見えるという)」
「(わたしはななつ、)」
「(ああこれは、)」
小さな手で覆う兄の目蓋は冷えている。
歳の分だけ広い兄の背中にぴったりと寄り添って、板張りの縁側から膝に伝わる冷たさを無視しようと努力した。
何かの書物で読んだのか、はたまた誰かに吹き込まれたのか。
さだかではないが、それは呪咀として己の体内に刻まれていた。
北斗の八つ星―――寿命星。
「―――松寿、」
松寿、大丈夫、平気だよと言う兄の声は優しくて、冷えた肩がふるりと震えた。
「…どこにも行かないでください、あにうえ」
だから星など見えないように、
儚さを報せる星など見ないように、
わたしがその目蓋を塞いでしまえば、
もう何も見えない。
何も何も何も何もなにも。
「大丈夫だよ、松寿丸―――」
腕に手を掛けた兄の体は冬に冷やされていた。
終.