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□君好み
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もっと愛して、なんて口にはしねぇけど、
どうすればもっと愛してくれんのかは、考えちまう
君好み
それは晴れただけの、何も無い日。
パタパタと軽い足取りで俺、清虚道徳真君の元に戻ってきたのは弟子の黄天化。
…で、あ、る、が。
帰って来て早々、楽しげに話題にするのは二人の距離を暖める様な浮いた話じゃない
…むしろ、冷やす話題。
「なー師父ぃ、『ヨウゼン』ってどんな道士さ?」
「ん? なんで?」
「いや、ちょっと小耳に挟んだもんで。」
(そう楽しげに他人の話をすんなよなー…)
いくら好きだと言って・言われてな関係だって、他の奴にコイツをとられているのは気に喰う訳がない。
「…よーぜんは変化の術が使える女装マニアだよ。」
≪俺の嫌いな≫コーヒーを、自分のカップに注ぎながら答える。
…いや、注ぐ、よりは入れる、か? 数滴だし。
手元が狂って大量に注ぐことが無いよう、さり気なく気をつけている俺の正面の椅子を引いて天化は座った。
「天才道士って聞いたけど?」
「他に変化の術が使える奴がいないからな。」
思いっきり牛乳で割ってやる。…でも、口に含むと、やっぱちょっと苦い。
天化の好みって、時々分かんねー…
「ふーん…」
「あんま興味持つなよな。 習得できるもんじゃねぇんだから。」
ちら、と天化を見る。…むかつく。
「え?」
上擦った返事。…むかつく。
「マジ?」
「ん。 無理なんだよ。
…つーか、ヨウゼンに興味とかさぁ…女装に興味があるように聞こえるぞ?」
俺はそんな弟子、ヤだ。
「そんなんねーさっ!!」
「ほ―…どーだかな。」
く―――っと苦い牛乳を飲み干してコップをとん、と置く。
…口、すすぎたい。
「…あ、でも。」
「?」
「あ…いやぁ、その…」
「なんだよ」
歯切れの悪い天化に俺は首を傾げる
「コーチって化粧したらすごそうとは、思うさ…。」
だらだらと変な汗を流しながら、天化は言った。
「すごそうって、何。」
「だから、に、…似合う、かなって。」
ほ―――…
「…いいよ。」
「え?」
「やれよ、お前。」
くいっとあごを上げて、
「俺に」
口付けの代わりに言葉をくれてやる。