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□ほっとけぇきみっくす
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 何度も脳裏をよぎる彼の背中を嫉ましく思いながら、彼ほど馬鹿な人間っていないだろうと何度も考え、その度に溜め息を落としていた。




っとけぇみっくす






「――やっと見つけた。」


 そう言いながら太乙真人は草むらに寝転んでいた雲中子の隣に腰を降ろした。
 彼が来たことを『かったるい、』と思いながらも、雲中子は敢えてそうは言わず、ただ広がる空に目をやった。
 何か言いたげにこちらを一瞥したクセ、慌てて目を逸らした太乙に少々腹を立てたものの、自分もそう、彼から目を逸らした。


「……ねぇ、」


 沈黙が気まずくなった太乙は口を開いたが、雲中子はそちらを見ないことにした。
 彼が億劫になる様な事を言うだろうと分かっていたこともあるけれど、『太乙が口にする』自体が気を滅入らせる。
 溜め息をつきそうになる感情を押さえながら、興味が無い、と無言で示すため寝返りながら背中を向けてやる


「最近のこの時間、ラボにいないよね、」

「そうでもないけど。」


 こんなに生きているクセに、『君に何が分かる、』なんて、ありきたりな言葉を口にしそうになる。

 それにしたって これで確実、と言った所だろうか。
 太乙がわざわざそんな事を言いに来るんだ、きっとラボの前にはアレが待っているんだろう。

――あぁ嫌だ。

 雲中子は、ここでもまるで中毒の様に溜め息を付きたくなった。
 それでも、そうしてしまったら太乙の感情が溢れてどうなるか分からないと思えば、やはり飲み込みにくいそれをまた喉の奥へと押しやった。


「じゃ、今日はどうしてここに居るのさ、」

「そういう気分だからだよ。
――君だってそうだろう?」

「君にしては随分子供染みた言い草だね。」


 驚いた、と目を丸くする太乙に、雲中子の気分は降下する。


「子供染みた?
 私は元々こうだったけどね。」


 もう振り返ってやらない、と心に決めると、精神的疲労の所為で重く感じる瞼を下ろした。


――子供染みた。


 そんな言葉、私より あいつの方がよっぽどお似合いじゃないか。
 存在を思い出した途端、ラボの前に座り込んだ水色ジャージを真っ暗な世界に思い浮かべてしまい、胸焼けに似た感覚が雲中子の心中を満たした。
 名前すら呼んでいないのに、どうして あいつはこんなにも自分を苛立たせ、平常心を乱してしまうのだろう。
 大体、太乙がここに来た理由だって『あいつがラボに居るから』なのは明白だ。



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