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□大きな羊よりも美しい世界へ。
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「赤精子と【やった】んだけどさ。
 なんでやったかっていうと、
 あいつが悪いんだけど。」


「そりゃ、どんな見方したって
 あーたから見た話ならそうなんだろうけど。」


 どこから巻き始めればいいのか、怪我の無い付け根を見つめた


「そうは言うけどさ、
 お前だって話聞いたらあいつが悪いって怒髪天に達する。」


「怒髪天、ねぇ……」


 それってよく言う言葉なんだろうか?


 落ちないようにと、テープで包帯の端を貼りつける。

 触れた指先で、皮膚が軽く沈む。


 想像していたよりも仙人の体というのはやわらかい。

 ―――これじゃまるで、人間だ。



「……あのさ、天化。
 オレの話聞く気ある?」

「え?」

「オレの身体、そんなに変か?」

「いや、別に、」


 否定するものの、瞼が重そうだった。


「―――オレ、海とか川とか、
 仙人になるまで見た事無かったんだ。

 塩って、
 岩しか無いって思ってたし。

 大きな水たまりの、
 あぁいうのがあるって、
 空が落ちる訳ないだろ、って思ってた。

 ホント、
 オレの世界には無かったんだ」


「へぇ、塩の岩?」


 布が直に皮膚に触れているというのに、悲鳴は上がらない。

 代わりに、眉が時々上下していた。


「ちょうどこの肉を一千倍の水で溶かした様な色でなんだけどさ。」


 顎で指す部分を、くるりと布で巻く。

 血が布の色を変える。

 また、上から布を巻く。



「―――宝石みたいな?」

「まぁ、
 塩無いと死ぬから高価ではあったけどさ。
 ……だから、
 オレの世界に大きな水たまりが
 あったところで生死が変わったりなんざないんだけど。」


 言い切ったくせに、何かに引きずられているそのザマで、思い当たる。



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