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□大きな羊よりも美しい世界へ。
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 ―――正直、自分にはわからない。

 一生理解できなくても構わないのだけれど。


 肉塊とは言わずとも血を流すその腕で
 既に半分以上が肉片と化し
 脆くなった片腕を抑えるその男がどうして、



 ―――どうして、むつけているのか。








大きな羊よりも
美しい世界へ。





「った――――――――ッ!!!」


「その声でこっちは耳が痛くなるさっ!」


 こんな重症の手当の仕方なんざ知らないが、
 一応消毒液は吹きかけてみる。

 血管が脈打つ様をこんな近くで見る機会は、
これからもあるのだろうか。

 まだ知っての日が浅いとはいえ、
 こんなものが日常だというなら
 仙道の世界というのは
 色鮮やかにも程がある。



「肉も切らせて骨も立つ、って奴だな!」

「切らせる必要ない上
 色々間違ってるさ、それ。」

「そうだったか?」

「正しくは
 肉を切らせて骨を断つ。
 …起立させてどうするつもりさ。」


「立たせるつもりは無いけどさ?
 肉切らせた分、
 骨見えてる所あるだろ。
 た、と、え、ば……」

「えげつないの見せる必要ねぇさ。」



 消毒液を置いて、包帯を伸ばす。



「なー天化。」

「最初に言うけど、
 痛いと思うかんね。」


 今からの所作を想うと、こちらも気が滅入る。


「怪我じゃなくて。
 お前も、魚食べた事ある?」

「…さかな?」


 川にいるやつで間違いはないんだろうか。


 想いを馳せるのは気に食わないようで、
「これさぁ、」
 と、もう片腕も並べる。



 それは屍が歩く時のように、だらりと力を抜いていた




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