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□溺れる雲の夢
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晴れ渡る空だった気がするけど、実際は気分だけがそうで空は違ったかも知れない日。
荷物の為に戻って、荷造りしている自分の後ろで空気が揺れた。
『珍しいのう。
おぬしが なんにも言わずに現れるなんて。』
『僕だっていつもおしゃべりって訳じゃないよ。』
得意の微笑みも付け足さず、代わりに壁にとさ、と寄りかかる音を立てた。
『では、わし以外の前のおぬしは いつだってお喋りだったと思ったのは思い違いかのう?』
『どうだろう?』
物をまとめる手が、自然、速度を落としていく。
それゆえ手元の物音は小さい。
大きいのは、彼が起こす音。
『もしそうだとしたらさ、』
とん、と彼が壁を軽く蹴った。
『僕はこれから暫くおしゃべりって訳だね。』
その声は自分の背中に直線距離で刺さった
『僕ら、これから息継ぎ出来るかな?』
手を止めて振り返ったけれど、普賢は居なくて、一瞬呼吸が止まった。
そして今もその時を思い出して、酸素に満ちたこの場所で溺れる感覚を味わう。
人が、
―――人が脳から想い出を掘り起こすのは、必要だと思った時だけだと思う。
だからきっと思い出した想い出は、自分が思っている以上に大事なことなのではないだろうか?