[自己完結]



簡単な依頼だった。

ちょっとした街のちょっとした令嬢をちょっと護衛するだけ。

問題は、仕事を終えて礼金を受け取った矢先に、その令嬢の口から生まれた。

「その…よろしければ…ずっとこの街に残っていただけませんか」

言葉の先には自分。

やんわりとなるべく傷つけないように断ったが、少し気になって隣を見やると、リナは無関心そうに大きな欠伸をしていた。



…決して不機嫌になって欲しいと言うわけではないが、なんとなく寂しい。

もしさっき頷いていたとして「あ、そうするの?」と笑いながら別れを告げられたら…と考えると、正直生きてる気分がしない。

先程屋台で買った串焼きの紙袋を幸せそうに抱える少女の姿に内心溜め息をついた。





「何かあった?変な顔してるわよ」

「え?あ、いやなんでもない。ちょっと考え事を」

「ふぅん。あんたが考え事なんて珍しいわね。明日は雨かしら」

「あのなぁ…俺だっていつも何も考えてないわけじゃないぞ」

「じゃあいつも何を考えてるのよ」

「…いや…」

「ほらね」

笑いながら、リナは串焼きを一つ頬張った。
少しの間食べることに専念していたが、3つ並んだ玉の2つめを飲み込むと、世間話のようにぽつりともらした。


「可愛かったじゃない」

「…可愛い?」

「さっきの子。
そこそこお金持ちみたいだったしね」


これは、もしかして気にしてくれてるんだろうか。
淡い期待が胸の内に芽生える。

が、


「あはは、でもあんた中身はともかく見た目はそれなりなんだから、もっと良い所からも誘われるかもよ。玉の腰も夢じゃないわね」

花開く前に玉砕。


「…リナはそうした方が良かったのか?」

「へ?」

3つめの玉にかぶりついていた手を休め、リナがこちらを見上げた。


…って、ああ俺ってば何を言ってるんだ。
つい反射的に出てしまった。
時間よできれば戻ってくれ。
先程の「あ、そうするの?」と言って笑うリナの顔が頭に染み付いて離れない。
大の大人が情けないくらいに泣きそうだった。


リナは首を捻って紙袋を抱えなおすと、特に深く考えた様子もなく、


「そうでもないかな…と言うより、なんか面白くないわね」


意外な答え。


「だってお前さん、玉の腰がどうのこうのって…」

「そりゃ言ったけど…え、何。本気にしたの?」

立ち止まって、リナがモロに慌てだした。

…はて?

「そんなわけないだろ」

「でしょ。でもあんたが玉の腰を必死に目指したら、たぶんなれるわよってこと」

安心したようにくすくすと笑って、視線をまた紙袋に落とす。


全て俺がそんなことをしないと言う自信から来る余裕なんだろうか。
信頼されてると言えばそうなのかもしれない。
…とりあえず、今はこれで納得しておこう。


勝手に結論を下した瞬間、昼下がりの街に典型的な悲鳴が響いた。
リナの視線を辿ると、ごろつき風の男5人ほどに囲まれた、若い男女。
二人とも、煌めく装飾品が付いた服を優雅に着こなしている。


「よっしゃ大当たり」
「大当たりって…」


小さく拳でガッツポーズを作り、一歩踏み出してからリナが朗朗と声を張り上げる。





「そこまでよっ!
あんたたち、怪我したくなかったら観念しておとなしく金品を置いていきなさい」

「…どっちが悪人なんだかなぁ」




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