bird's-eye view

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「へぇ、宇藤伊月、ね」


彼――雲雀恭弥は、草壁哲矢の報告を聞いて微かに口角を上げながら、その名を口にした。

昨日の早朝、屋上で、彼と伊月は出会った。
彼が初めて伊月を見たとき。伊月は光のような速さで、住宅街の屋根、電柱の天辺を蹴り、屋上へ現れた。
辛うじて目で捉えることができたその姿は、まるで滑走する鶻(はやぶさ)のようにも見えた。


あのあと1時限目、再会した際に、試しにトンファーを振るってみたら、やはりというか、かわされてしまう。
そして彼は安眠妨害されたことや攻撃をかわされたことに腹を立てるどころか、大いなる興味を持ちだしたのだ。

直ちに、草壁に『宇藤』という名字の、最近転入してきた1年生の事を調べさせた(あのとき名前を訊ねることはしなかったが、伊月が自分自身のことを『宇藤』と呼んでいたことを聞いていたのだ)


その結果が、翌日の昼休みである今、報告されたのである。


「宇藤伊月は○○中学に通っていた1年生ですが・・・保護者の仕事の関係で引越し、並盛に転入したようです。成績優秀、スポーツ万能で中々の優等生だったと評判は良いものでした」


「ふうん。他には?」


「いえ・・・現在、血縁関係や交友関係を洗い出していますが、それらも特にこれといって変わった点はありません」


「・・・そう。わかった、下がって」


「はい!」


雲雀は詳しく追求しなかった。
あまりにも『普通』すぎる、等と引っ掛かる点は多々あるが、草壁をはじめ風紀委員の調査なら、疑うほうが愚かだと言えよう。
――本来、並盛中学校の風紀委員は、探偵顔負けの情報収集力があるという点でも有名だ。彼らはそれこそ対象が殺し屋であっても、雲雀の一言さえあれば命の危険をかえりみることなく調査に踏み込む。

よって風紀委員の持つ情報は絶対であり、雲雀もその力を認めているからこそ、彼らを従えているのだ。
今回、伊月の件に関しては期待外れな情報だったが、彼らが言うならそれが真実なのだろう。雲雀はそう自分を納得させた。

しかし草壁が去ったあと、雲雀は一人、ぼそりと呟いた。


「あの赤ん坊なら、何か知ってるかな」


最近自分の周りで妙な動きをする草食動物――沢田綱吉、獄寺隼人、山本武――彼らに一枚かんでいるらしいスーツを来た赤ん坊がいる。
彼はその赤ん坊がお気に入りだった。

携帯電話を取りだし、赤ん坊の連絡先をアドレス帳で探しだす。電話をかけようとボタンを押しかけて、ピタリと動きが止まった。

自分は何を、あんな少女のために必死になることがあるのだろう、とふと考えたのだ。


(・・・宇藤伊月が何者であれ、彼女は暇潰しには最適だし・・・しばらくは野放しにしていてもいいかもしれないな)


普段から他人に興味を示さない彼らしく、もうさっぱり伊月のことを考えるのをやめた雲雀は、彼の定位置である皮張りのソファーに腰かけて、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけた。











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