REBORN!/M・M


今日、私は生まれて初めて友達が出来た。
両親に、お金で買ってもらった友達だった。


「何よ、ジロジロ見て。私と遊びたいんでしょ?お金は先払いしてもらったし、今日一日嫌って言う程遊んであげるわよ、アンタとね」


M・Mと名乗った彼女は1日1万円でこの『仕事』を受け入れてくれた。
私をこの『箱』から出さない事と、いつもの発作が起きたときに直ぐに人を呼ぶ事が条件で、ただ話をしたりゲームをしたりする仕事だ。


「何か言ってよ。私ばっかり喋ってバカみたいじゃない」


彼女は私の顔を覗き込み、つまらなそうに目を細めた。


「私、同世代の子と話をするのが初めてだから、何を話したらいいのかわからないわ」


私がそう言うと、彼女は、ああ、と納得したような顔をして、


「何でもいいのよ、好きなものの話とか、あと何かして欲しいとかあれば、私に出来ることならやってあげるわ。『友達』だしね」


と、綺麗な、上辺だけの笑顔を浮かべて言った。


「……なんでも?」


「まあ、今回の仕事の条件さえ守れれば何でも、ね」


「じゃあ、無理だわ」


彼女は私の言葉に目を丸くした。
そして苛ついたように眉を寄せる。


「もしかして、此処から出たい、なんて言うつもりだったの?その身体で外出歩いたらすぐに死ぬわよ」


「ええ。それでもいいの……外の世界が見たいのよ。このままこの『箱』の中で暮らすのはもう嫌なの」


「だからって『友達』を巻き込まないでよ。そのせいでアンタが死んだら、私が人殺しになりかねないじゃない」


「それが、何だって言うのよ」


彼女は今度こそ、不機嫌さを思いきり露にした表情で私を睨んだ。
可愛い顔が台無しだわ、と思いはしたが、彼女にそういう顔をさせている張本人の私は、彼女に対して更に失礼な言葉を浴びせていく。


「私の両親がどういう仕事をしているかは分かってるわ。だから貴女がどういうルートで此処へ来たのかも大体予想できる。
どんな組織に所属しているのかも――まあこれは、両親のお金で動いている時点で確実に闇の組織だと断定できるわ。
貴女、人を殺すのなんて今更何とも思わないはずでしょ」


「ソコは否定しないけど、アンタ勘違いしないでよ。私は快楽殺人者じゃないわ。金さえくれればどんな仕事もする真面目ちゃんなだけよ。
今回はアンタの『友達』として一緒に居る、ただその『仕事』をするために此処にいんの」


「じゃあ……じゃあ!友達なら、友達なら私の一番の願いを叶えてよ。金は先払いしてもらったんでしょ?なら私を外に出したら直ぐに逃げればいいじゃない。早くここから出してよ!友達なんでしょ!?」


そこまで言って、彼女の異変に気が付いた。
怒っている表情の中に見える、暗くて冷たい感情。
私を侮辱するような、憐れんでいるような、どちらにせよ見るものをゾッとさせる目をしている。


「これだから、マフィアは嫌いよ……」


その目に、表情に釘付けになっていたので、彼女の言葉は私には届かなかった。


「いい、良く聞きなさい」


彼女はおもむろに私の手を掴み、力強く握ってきた。
それで正気に戻った私は驚いて肩を揺らす。


「私は金さえ貰えれば与えられた仕事は真面目にこなす主義なの。さっきも言ったわよね?
今回の『友達になる』にしてもそう。だから私は今、『本当の友達』になりきってアンタに伝えたいことがあるわ。

自分の命を大事に出来ない友達を見ると胸糞悪いのよ。
そして万が一アンタが死んだりしたら、友達の私は酷く悲しむわ」


『マフィア育ちで今まで友達居なかったアンタにわかんないだろうけど』と続けた彼女は溜め息を吐いた。
そして、『アンタ達は馬鹿ね』とも言った。


「だからアンタの、外に出たいっていう願いだけは叶えたくないのよ。友達だもの。

ねえ、アンタも私の友達のつもりなら、もうそんなことは二度と言わないで」


――気丈そうに振る舞っていた彼女が、弱々しく笑う。
しかし、それは紛れもなく演技だった。こんな綺麗な言葉も表情も、彼女の本心から出たものではない。

しかし綺麗ではなくとも、無垢なのだと思えた。
彼女は知らないだけなのだ。
表面を繕うことばかりに長けてしまった、無垢で、それでいて憐れな女の子。
私と同じで、私とは違う、ひとりぼっち。

だって『友達』を――さっきのような目で見たりしない。
私の『友達』に関する定義も、正しいかどうかは怪しいが。


「よく言うわ……所詮、金目的にしか人と交流しないくせに。猿芝居が上手くて何よりね?」


私は果てしなく意地の悪い返事をした。

彼女は笑った。


「ふふっ、あはは!まあね、これもお金の為だし?お金はいいわよー、絶対に裏切らないもの」


気が付けば、私も笑っていた。
理由はちっとも分からない。
しかし気を使うこと無く素直に笑うのは久しぶりだった。


「ねえ、貴女――M・M。もう外に出たいだなんて言わないわ。それから、お金を払い続けるよう親に頼むから、明日からも此処に来てよ」


「いいわよ、但し前払いでお願い。1週間単位くらいがベストかな」


「了解。頼んでみるわ」


最初に感じていた緊張も違和感も、何もかもが消え去っていた。
こんな形でしか愛情を表現できない親に失望をしたことも、しかしそれにすがろうとしていた自分に絶望したことも、金目当てに上辺だけの優しさを振り撒く彼女に嫌悪感を抱いたことも、これからを生きるのに必要な出来事だったのかもしれない、と思えて。


「ね、M・M」


「なあに?……ニヤニヤして気持ち悪いわね」


「ずっと仲良しな友達でいようね?」


「あたり前よ。私たちの友情は不滅よ」


一瞬の間を置いて、自分達の言った言葉の滑稽さに、二人同時に吹き出した。

歪んだ子供達、そう言われても構わない。
ねえ、貴女もそう思うはずよ、M・M。

――まずは『友達ごっこ』から始めましょう。
こんなに楽しい遠回り、しないときっと損をする。





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実はこのサイト初の黒曜キャラ夢だったりします。
M・Mはイイよ……すごくイイ(危)

拍手ありがとうございました!



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