◆鋼◆

□猫
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夕食の準備ができると、僕は同居人であるエドワードさんを呼んで、二人で食卓についた。
僕の前に座った彼は、すぐには食べ始めようとせず、食卓に並ぶメニューを眺めている。

「…なぁ、何でお前の分の牛乳だけねぇの?」
「…それはその…さっき全部飲んでしまいまして」
「でもなんか飲みながら食ったほうが良いだろ?俺の半分やるよ」

牛乳嫌いな彼は、案の定自分の分を僕に寄越してきた。

「いりません。エドワードさんはちゃんと牛乳飲まないと身長伸びませんよ」
「なっ」
「にゃぁ〜」

「「……」」

居間に置いてきたはずの猫が、いつの間にか食卓に潜り込んでいた。
数秒の沈黙の後、エドワードさんが怪訝そうな顔をして僕を見てきた。

「アルフォンス…」
「……雨に濡れて可哀相だったから拾ってきちゃいました」

エドワードさんは僕の言葉に何故か少し驚いていた。
それから食卓の下から出てきた猫を抱き上げると僕に尋ねた。

「お前の分コイツにやったのか?」
「他に買い置きがありませんでしたから…」
「……そっか。痩せてんなぁコイツ、普段何食ってんだろう…」
「……」
「俺の分の牛乳も」
「駄目です」
「何でだよ!?」

エドワードさんが怒鳴ると猫はスルリと彼の手から逃げた。


「この前女の子と間違われて憤慨してたのはどこの誰でしったけ?」
「うっ…うるさい!!別に牛乳なんて飲まなくても…!」
「どうしても飲めないって言うなら、口移しで飲ませてあげましょうか?」
「っ……」

冗談で言ったのにエドワードさんは俯いてしまった。
どうしよう…怒らせてしまったのかな…。

「あの…エドワードさん?」

僕がオロオロしていると、彼は頬を赤らめて小さく呟いた。

「…やっぱり、アルと違う…」

……アル?
ああ、エドワードさんの弟のことか…。
彼は、僕をよく彼の弟と混同していたから、僕自身を見てくれたことが少し嬉しかった。

「僕は貴方の弟じゃありませんからね」

苦笑する僕をエドワードさんはじっと見つめてきた。
見つめ返すと、彼の手が僕の頬にのびてきた。
あまりに彼の顔が真剣だったので、彼の手が頬に触れた瞬間、心臓が大きく一回跳ねた。

「っ、あの…何を……」
「飲ませてよ…口移しで」
「!!」

この人はいきなり何を言い出すんだろう!?
いや、先に言ったのは僕だけど、でもそれは冗談だったから…あぁ、でもエドワードさんからこんな…!
僕はいったいどうしたら…

「…プッ、アハハ!冗談に決まってんだろ!何赤くなってんだよ!」
「……」

どうやら彼もふざけて言ったらしい。そのことに少し安堵したけれど、同時に何故か怒りが湧いてきた。
彼のコップに入った牛乳を少し口に含むと、未だに笑っている彼の顔を捕える。彼は僕と目が合うと、僕の真意に気付いたらしく、一気に青ざめた。
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