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□アネモネ・リング
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赤い石造りのアーケードの真下に、うなだれて溜め息を吐く少女が一人。普段は神託の騎士として軍服に身を包む彼女だが、さすがに今回ばかりは女性らしい長い髪に似合う、ふわりと風になびく若草色の長スカートに、小さなマークの入った白いTシャツを着ている。いつもと違って、柔らかい布が太股を霞める感触が少しくすぐったい。そのせいで流れる風をいつもより強めに感じながら、未だ現れぬ待ち人に思いを馳せる。
「ルークったら…」少し時間が経った頃、待ち人の名を混ぜて独りごつ。当然返事などなく、もう一度溜め息を吐くと、それに呼応するかのように空から糸が引かれ始める。
『雨が降ってきてしまった…。どうしよう…』一瞬、近くにある店にでも入ろうかと思ったが、そんなに強い雨でもないので、アーケードの下にいれば濡れることはない。
「もう…」拗ねるように唇を尖らせ、ぽつりと呟いた。


軽い雨だからと傘をささずに走っているせいで赤い髪には雫がしたたり、ズボンの裾は濡れて見るも無惨なことになっているが、ルーク自身は気付いていない。息を荒くして、必死に走る。向かっているのは、ティアとの待ち合わせ場所ではない。今までやみくもに走っていたルークだったが、今行こうとしている場所がどこにあるのか分からず、ふいに立ち止まる。
「やべ……」迷った、と言っても、ここはそんなに広い街ではない、鮮やかな色彩と香りを辿れば、行き着けるはず。通りすぎてしまわないように歩調を緩めて、辺りを見回してみる。
「良かった…あった……て歩き出した。ルークはかなりの速さで走っていたので、すぐに2人向かいあわせになって、笑いあう。
「ご…めん…遅れて……っ」
「いいのよ。私も来たばっかりだったし」
他愛ない、使い古された会話。濡れなかったか?風邪ひいてないか?などと幾つか質問をして、ティアが否と答える度に不安そうな顔をしていたが、ふいに見上げた空の青さに笑顔を浮かべる。
「あ、雨止んだな」気が付けば、いつの間にか雨は上がり水々しい空気が辺りに満ちていた。
「本当…良かったわ」マロンペースト色の髪をかきあげて風に流し、幸せそうに笑む。ルークは、その笑顔に顔を赤くしてしまい、それを隠しながら2人並んで雨上がりの空の下を歩き出す。
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